夏休みに突入。
普通だったら付き合い始めたばっかならデートとか行ってもいいはず。
でも残念ながらそんな予定はなし。
千尋先輩は毎日バイトの予定。
50’sの始まる前の午前からお昼にもバイトを入れるようになっていた。
どこか休みはとるから、とも言ってたけど。
岳斗も叔父さんの酒屋さんでバイト。
でも千尋先輩ほどは入っていないし時間も短い。
…寂しい、なんて思っちゃいけないんだろうけど。
でも自分の中で思うだけならいいよな?
学校があった時は会えてたけど夏休みに入った途端にやっぱり会えなくなった。
50’sが終わった後だってまた次の日バイトがあるんだと思えば、疲れているだろう千尋先輩に連絡するのも憚られる。
そして千尋先輩からも連絡がない…。忙しくて、疲れてるんだ…きっと。
7月中はほとんど会えなかった。
そしてあっという間に8月になろうとしてた。
「あんたお盆はどうするの?」
「え~?……行かない」
「真由も行かない~」
母親の言葉に即座に岳斗が断った。
お盆は毎年いつも父親の実家に皆で行ってたんだけど高校生になった去年から岳斗は行ってなかった。
去年は一人で留守番でコンビニ弁当で暮らした。
たった2日3日だし。
「お兄ちゃんはいいけど真由はだめ」
母親の言葉に真由が膨れてる。
「子供が大人になってきてやぁね~~」
「行くの15日16日?」
「そう。17に帰ってくるから」
岳斗が聞けば母親が頷いた。
「了解」
何故か知らないけど岳斗は親に信頼されててわりと自由にさせてくれる。妹の真由は下で女の子だからか割と厳しくて、いつもずるいずるいばっかり真由に言われるのに岳斗は舌を出す。
「岳斗誕生日何欲しい?」
「え~…お金?」
「最っ低~」
真由が舌を出す。
「あ、ケーキとかも別になんもいらないよ?先輩と出かけるかもしれないし。まだわかんねぇけど」
「…ホント男の子ってつまんないわね~」
母親が肩を竦めてた。
先輩と出かけるかも?そんな約束なんてない。だって千尋先輩は岳斗の誕生日だってきっと知らないだろうし。
あ、そういえば千尋先輩の誕生日いつだろ?尚先輩が4月って言ってたけど…。
今度聞いて…。
あ、でも反対にお前のは?って聞かれたらまるで岳斗が期待してるみたいになるから、自分の誕生日過ぎてから聞いてみよう。
そういえばお盆の親いない時ってチャンスかも…。
それはさっそく後で聞いてみる事にしよう。
日中はバイトでも夜だけでも一緒にいられれば…。
あ、でもそれもナニゲにして、って感じに取られてしまう…か?
岳斗はただ一緒にいられればいいだけだけど…。千尋先輩はそうは取らないかもしれないし…。
やっぱり余計な事言わないほういい、のかな…?
千尋先輩から連絡ないのもバイトで疲れて、だろうし。
…きっとそう、だよね…?
もう何日会ってないかな?
もう何日声聞いてないかな?
千尋先輩がいないだけで毎日がつまらない。
会いたい、よ…。
それなのに余計な人には会うんだ。
「あれっ!岳斗!酒屋ってここか!」
バイトの酒屋で声をかけられたのは尚先輩だった。
「喉渇いたからなんかないかなぁと思ったら!」
「なんだ?岳斗友達か?」
「学校の先輩!」
尚先輩はスポーツドリンクを手に取った。岳斗はレジも覚えたのでレジに入る。
「100万円で~す」
「ぼったくり~!」
尚先輩との軽い口調が久しぶりだ。
「…千尋と会ってる?」
叔父さんに聞こえないように尚先輩が顔を寄せて小さく聞いて来た。
「ううん…。バイト忙しいみたい…」
岳斗はしゅんと顔を俯けた。
「みたいだな。決めたんだろ?」
「うん」
その質問にはこくんと岳斗が頷いた。
「お盆とかもか~?」
「分かんない…」
「お盆と言えば!岳斗もうそろそろ誕生日だろ?」
お盆というキーワードは聞こえたらしい。叔父さんがあ!とぽんと手を叩いた。
「え?何で知ってるの…?」
叔父さんががははと笑った。
「だってお前小さい頃お盆で小遣いあげると誕生日プレゼントは?って請求してきたから!ぼくなん歳になったんだけど、って」
恥ずかしい~~!
尚先輩がくっくっと笑ってる。
「可愛いねぇ。で、何日なの?」
「…10日」
「千尋と約束?」
岳斗は顔を俯けて首を振った。
「……アイツ何やってんだよっ!」
尚先輩が眉を顰めながら小さく叫んだ。
「いいのっ!だって大変なんだよ?一人で東京行くって!」
「…それは分かっけど」
「尚先輩!千尋先輩に言わないでね!言う時…ちゃんと、俺、自分で言うし!」
「……分かったよ」
尚先輩が仕方なさそうに頷いたのに岳斗はほっとした。
テーマ : 自作BL小説
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