「も、もしもしっ!」
夜に千尋先輩から電話がかかってきて慌てて岳斗は電話に出た。
『時間遅いけど、外出られるか?』
「出るっ!出ますっ!」
『じゃいつもの公園、な?』
「う、うんっ!」
千尋先輩からだ!
嬉しいっ!
岳斗は電話を切るとすぐにそっと家を出て急いで公園に向かった。
ちょっと待つと近づいてくるバイクの音。
街灯の下。
そういや初めてキスしたのもここだったっけ。
か~っと顔が赤くなる。そういえば全然会ってないからキスもしてない。
バイクが近づいてきて止まった。
千尋先輩だ~!
ヘルメットをとるといつもよりも多く頭を振っている。
「汗が……」
「ち、ひろ…先輩…」
うぅ…と久しぶりの姿に泣きたくなってくる。
「岳斗」
千尋先輩が岳斗の腕を引っ張って公園の中に連れて行く。
「岳斗……全然会えてない…悪い」
「ううんっ。分かってる、から…」
抱きついていい、かな…?嫌じゃない、かな…?
そう思って躊躇してたら千尋先輩がぎゅっと抱きしめてくれた。
それに安心して岳斗も手を千尋先輩の背に回す。
煙草の匂いとフレグランスの匂いは同じ。それに汗が混じった感じだ。
「千尋先輩~…」
「ああ…岳斗…」
耳元で名前を呼んでくれる。
そして屈むと性急にキスしてきた。
千尋先輩が足りなかった!
ずっと!
「ち、ひろ…せ…」
「ああ、分かってる。岳斗。俺もお前が足りなかった…」
ホントに…?
何度も何度も交わすキス。
よかった…。嫌になられたかと思った…。
「岳斗」
ああ…千尋先輩だ…。
岳斗は思い切り力を入れて抱きついた。
「岳斗」
千尋先輩が何度も何度も確かめるように名前を呼んでくれる。
何も喋らなくていい。こうしているだけで…。
夜でも暑いのにそんな事より千尋先輩に触れていたかった。
「……毎日寄るか?」
千尋先輩が唇を離すとそう囁いた。
「ううん。大丈夫。……でも、たまに、寄って?」
「ああ」
千尋先輩の手がずっと岳斗の頭を撫でてくれている。
「お風呂入ったけどもう汗かいてるから…汚いよ?」
「汚くねぇよ。それいったら俺の方が汚い」
「千尋先輩はいつでもカッコいいよ!……」
そういえばバイト先、ガソリンスタンド、だけどきっともてるんだろうな…。
お客さんとかにも声かけられたりとか…。
ふるふると岳斗は頭をふった。
「千尋先輩…あの、10日ってバイト何時から何時?」
「10日?確か日曜だな。スタンドで1日だ。なんだ?なんかあるのか?」
「ううん!あ、の…お盆は?」
「お盆も同じく……」
そっか、じゃ、やっぱだめか。
50’Sが休みなのは知ってたからちょっと期待したんだけど、がっくりしてしまう。
何時間かだけだったらその後、と思ったけど1日じゃ、な…。
…仕方ない。
「岳斗?」
「ううん!また…寄って…?いい……?」
「ああ」
「ベースも弾いてた?」
「ああ。弾いてる。弾かなきゃ腕が落ちる。それじゃ何のためにバイトしてっか分からねぇだろ」
「……うん。俺、千尋先輩の曲が聴きたいな。勿論ベース弾いてるとこはいつでもカッコイイけど…」
くしゃっと千尋先輩が岳斗の頭を撫でる。
「お前がそう言ってくれるから頑張れる」
「うん」
「……岳斗、メールはいつでも入れてていいんだぞ?すぐに返せない時でもちゃんと後で返す。お前に我慢させてるのは俺だって分かってるから」
ふるふると岳斗は首を振った。
「我慢じゃないよ?だって千尋先輩の為だもん。…ただ、千尋先輩が足りなくなるから…たまにでいいから会いたい…ちょっとでもいいから…会いたい、んだ」
折角我慢してたのについに涙が零れてしまった。
誕生日に、とかお盆にとか無理言わないから、今みたいにちょっとでいいから…。
来年は会えないんだからせめて今だけは会いたい。
「岳斗」
また千尋先輩が抱きしめてくれた。
「よかった…」
「よかった…?」
「お前、泣かねぇから…俺愛想つかされたかと思った」
「……俺、泣いた方いい、の?」
「岳斗に関してなら。泣かれた方安心出来る」
「……ひどい」
零れた涙を拭ってくれる。その手が優しい。
岳斗の頬に触れる大きな手に岳斗は手を重ねた。
大好きな千尋先輩の手だ。ベースを奏でる大事な手。
「岳斗…」
千尋先輩の仄かな煙草の香りと一緒にまた唇が重なった。
テーマ : 自作BL小説
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