千尋先輩の手が優しく岳斗の髪を梳いていた。
千尋先輩はジーパンを履いてベッドに腰かけ、煙草を咥え、岳斗は裸で千尋先輩のベッドのタオルケットに包まっていた。
「…尚先輩、が…?」
「あ?……ああ、俺のバイト中に通りかかったんだ。岳斗の誕生日なのに何してる!?って怒られた」
「尚先輩は、その、偶然俺のバイト先に来て、そん時、その…叔父さんが俺の誕生日近いなって…言って、それで……たまたま…。って尚先輩ってどこにでも現れるの?」
「………らしい、な」
ぷっと千尋先輩と顔を合わせて笑ってしまう。
「千尋先輩…」
岳斗は千尋先輩の手を取った。
手を合わせてみると大きさが全然違う。
「うわ!でか」
「……お前は小さいな。全部小せぇもんな」
ぽんぽんと頭を撫でられる。
「そこまで小さいってほどじゃないと思うけど」
口を尖らせると千尋先輩がふっと笑ってキスしてくれる。
煙草の匂いと甘いキス。千尋先輩のちょっと長い髪がかかって、意外と長い睫毛が目に入る。
大好きだぁ……。
思わずぽうっとして見惚れればくっと千尋先輩がまた笑った。
「その目が…」
「え?」
「いや」
千尋先輩がうっすらと笑みを浮べてる。
「……もしかして、俺、思ってた事、分かった?」
「ん?……」
千尋先輩がついと視線を岳斗から逸らせた。
分かった、んだ!
かぁ~っとまた岳斗の顔が赤くなってくる。
「だって!だって!……好き、なんだもん」
「ん……だから、俺もその目にやられたんだ…お前の無心の目にな…」
恥ずかしいぃ~!
岳斗は思わずタオルケットの中に隠れた。
「岳斗…誕生日おめでとう。まだ言ってなかったな」
タオルケットの上から千尋先輩が岳斗の身体を抱きしめながら言った。
「……プレゼント…何も用意出来なかったじゃないか」
「……いい、もん」
そろりとタオルケットから目だけを出した。
「千尋先輩、いてくれる、だけでいい…」
「…そんなの」
「ずっと…来年もその次も、それでいい。いてくれれば…いい、もん」
「岳斗…お前な……まだ煽ってくんのか?」
「煽ってないし!意味わかんない!」
「お前にそんなカワイイ事言われたら欲しくなるに決まってる」
決まってる、って断言されたって…。
「全然、してくんなか…たのに…」
「お前が辛そうだと思って……していいならいくらでも」
小さく聞こえない位の声で言ったつもりだったけど、しっかり聞こえていたらしい。しかもいくらでも、って!
それは無理!
「身体は?」
くくっと千尋先輩は笑いながらタオルケットに包まっている岳斗をさらにぎゅっと抱きしめた。
「だいじょぶ…多分。…ね?千尋先輩、バイトバイトで疲れてるでしょ?……ちょっと寝る?」
くったりと疲れたのと安心したのか岳斗はとろりと眠くなってきたのでそう言うと、岳斗の横に千尋先輩も岳斗の身体を抱きしめたまま横になった。
そっと岳斗が手を伸ばして千尋先輩の胸に手を当てる。
肌が触れるのが嬉しい。
「お前も眠いのか?」
「うん…少し」
だって安心した…。
千尋先輩が忙しいのは勿論分かってたけど、そう自分に言い聞かせていた部分もあったから…。
「じゃちょっとだけ、な?」
「…うん」
ちょっとでいい。だって折角の千尋先輩と会える時間だから…。
千尋先輩にぺたんとくっ付いて岳斗は目を閉じた。
屋上でも寝てるくらいだから千尋先輩も寝られるはず。
だって絶対疲れてると思う。
千尋先輩の匂いに包まれている。
つまんない誕生日だと思ってたのに…。
「千尋先輩、ありがとう…嬉しい……好き、だよ」
ちょっとだけ目を開けると目の前の千尋先輩の口の端にキスした。
自分から、なんて初めてで照れくさくなる。
それに満足してすり、と千尋先輩の胸に顔を埋めるようにすると千尋先輩の腕が安心させるように岳斗の身体を包んでくれる。
温かい…。
クーラーで冷えた部屋に温かい体温が気持ちいい。
ねぇ、千尋先輩も同じように感じてくれるかな…?
屋上で膝枕に岳斗を使う位なんだから少しは体温をいいと思ってくれてるのかな?
肌が触れるのが好きなんだ。
ずっと、来年も再来年もずっとこうしててもらえれば岳斗は幸せだと思う。
だって今が幸せだ。
カワイイ、恋人って、付き合ってる、って…。
そう思ってくれてたのが分かって嬉しかった。
「千尋先輩……」
「…いいから、お前も寝ろ。…………安心する、か?」
千尋先輩の目も少し開く。
「うん…ずっと……」
こうしてて欲しい。
「ああ……岳斗…お前が好きだ」
耳元で甘く囁いてくれてキスをくれるのにうわぁ、とまた顔が赤くなった。
「寝ろ。俺は寝るぞ?」
「うん。オヤスミなさい」
岳斗は手を伸ばして千尋先輩の身体にもタオルケットをかけて千尋先輩の腕の中に入ると岳斗は静かに目を閉じた。
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