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翼を休めて。(前) 10

 朝の明るい暑い陽射しに岳斗は目を覚ました。
 目を開けると目の前に千尋先輩のカッコイイ顔の寝顔があったのに見惚れてしまう。
 だって無防備な千尋先輩だ…。
 シングルのベッドで身体を千尋先輩に抱きしめられながら寝ていたらしい。千尋先輩の腕が岳斗の身体に回っていた。
 昨日はいっぱい千尋先輩を感じられて嬉しかった。

 千尋先輩…。
 この人を手に入れられるなんて思ってもみなかった。
 ずっと1年生の頃から憧れて…。
 それなのに岳斗の誕生日にわざわざバイトを早退してまで来てくれて、朝までこうして一緒なんて…。
 「幸せすぎる…」
 小さく岳斗が呟くとくっと千尋先輩から含んだ笑いが聞こえた。
 「え?起きてる、の…?」
 「起きてない。おはようのキスねぇし?」
 え…?しろ、って事?
 ドキドキしながら首を伸ばしてそっと千尋先輩に唇を軽く合わせたらそのまま頭を掴まれて舌がすぐに岳斗の口腔に入ってくる。
 「ぅ…うんっ!」
 思わずそれだけで敏感になってる身体が反応してしまって声が鼻から漏れてしまう。

 「…なんだ?あんなにしたのにもっと?…岳斗、エロいな」
 「ちっ!ちが…」
 だって千尋先輩だからっ!
 「俺はいいけど、お前がキツいだろ。…今度は15日にお前の部屋でたっぷり愛してやる」
 か~~~~っ!と岳斗の身体が真っ赤になってしまう。

 そ、そん、な…愛して、なんて……。
 恥ずかしすぎて悶えそうになって岳斗は顔を覆い、身体を捩ったら頭に何かがぶつかった。
 なんだろう?と思って手を伸ばしたら…CD?

 「……………お前に」
 「俺?」
 千尋先輩がそそくさと起き上がって着替えをし始める。岳斗とは目も合わせないで。
 「…そんなこっ恥ずかしい事を俺がするハメになるなんて思ってもなかった!岳斗が悪い!」
 「え?俺?」
 「…誕生日だと初めから知ってればそんな事もしなかったのに…。いいか?必ず音を外に出さないで聴けよ?」
 「え?…うん…」
 もしかして昨日ギターで弾いてた…曲…?
 ホントに…?
 「…飯食って送ってく。バイトあるし。…ゆっくり出来なくてわりぃ」
 「え?ううん!全然!」
 少しだけでも一緒にいららればそれで岳斗はいいのに千尋先輩はそんな事を言うんだ。
 「…バイク、乗れるか?」
 「え、と…だいじょぶ」
 ゼリーのおかげか、まだなんとなく違和感はあるけれど初めての時より全然大丈夫みたいだ。
 …でも、いちいち聞かなくていいから…と岳斗は顔が赤くなってしまうのに千尋先輩は全然相変わらず普通なんだから。

 パンを焼いて千尋先輩が用意してくれて、家まで送ってもらい、そのまま千尋先輩はバイトに行った。
 岳斗もバイトはあるけれど午後からなので時間は全然まだある。
 ばたばたと岳斗は自分の部屋に入ってヘッドホンをつけてさっそくCDをかけてみる。

 がちゃがちゃした音。
 始めるぞ、という声。

 これ、Linxだ!
 え?なんで?と思いながら黙って聴いていると岳斗の好きな千尋先輩のベースがグリッサンドで入る曲だ。
 次々と千尋先輩の曲がLinxの演奏で入っている。
 デモで録ってた物なのだろう。
 二度と聴けないと思ってたのに!
 曲の合間に尚先輩の声が入ったり、千尋先輩の声も入ってたりして、千尋先輩の声がする度にもっと喋って!と思わず思ってしまう。
 岳斗の事だと言われた曲も入っていて、思わず改めて歌詞をじっくりと反芻すると岳斗は熱くなった顔を覆って悶えてしまう。

 だって、コレ、千尋先輩が岳斗をこう思ってた、って事なわけで。
 尚先輩が心して聴けと言ったのも頷ける。
 そしてLinxの全員が千尋先輩の事を知っていたという事で、だからいつだか恥ずかしいヤツ、とか言われてたのか、と今更思い当たった。
 俺だけでいい…なんて、岳斗には千尋先輩だけだよぉ…と泣きたくなってくる。
 曲が終わってぷつ、っと切れた感じがした。

 終わり?でもまだある…とそのままにしているとギターの音が聞こえてきた。
 そして小さく口ずさむ千尋先輩の歌声。
 歌詞はなくてメロディーラインだけをただ辿っているだけ。
 でも千尋先輩の声…。
 音量を高くして思わず聞き惚れる。しっとりとした曲。
 いい声だ~。好きだ~。
 頭がぽうっとしてきそうだ。
 そして曲が終わる。
 『岳斗、誕生日おめでとう…』

 ……………………………!
 囁くような千尋先輩の声が入ってて思わず岳斗は顔を真っ赤にして身体を震わせて身悶えしてしまった。
 千尋先輩の声~!
 岳斗だけに向けた声!
 何度も曲と声を聴いて聞き返して、そして泣けてきた。
 一緒にいられただけでも嬉しかったのに!まさかこんな…!
 だ~っと泣きながら千尋先輩に電話してみる。バイト中だから出ないと思うけどと思ったらはい、と千尋先輩が出た。
 「バイト中!?」
 『ああ、ちょうど休憩中だ』
 「千尋先輩~~~~…」
 『……お前また泣いてる?』
 「だって~~~~~!!!」
 『………ああ、……わかった、から』
 照れたような感じの声。
 「千尋先輩!!!ありがとう~~~!俺、コレ一生の宝物にする~~」
 ひくっと泣きながら岳斗が言えば大袈裟だ、と言ってじゃあ、と電話をぶつっと切られてしまった。
 かなり千尋先輩には恥ずかしい事だったらしい。
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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