段取りがよくなくて四苦八苦しながらもどうにか用意を終えると千尋先輩から今から行くとメールが入った。
油が跳ねてちょっと火傷したり、危なく包丁で指を切りそうになったりと自分でも冷や冷やしたけれどテーブルに並んだ物に自画自賛する。
「俺、すごくね?」
しかし初めての料理を千尋先輩に、というのにはかなり不安がある。
まぁ、料理っていってもタレ絡めただけとか、コールスロー盛っただけとか、切って和えただけとか、チョー簡単なんだけど。
でもナニゲに満足感が漂う。
そして聞こえてくるバイクの音にあ!と岳斗は落ち着かなくなってくる。
だって誕生日以来会ってなかったから5日ぶりだ。
バイクの音が止まったのにわたわたと岳斗が外に出た。
「千尋先輩っ!」
玄関を開けると千尋先輩がバイクから降りてヘルメットを外していた。
「岳斗」
うわぁ、とやっぱりドキドキしてしまう!
「あっちぃ…」
夜になっても気温は高くて千尋先輩は汗だくになってた。
「あ!シャワー…先、する?」
「ああ、出来れば…でもその前に」
バイクにチェーンをかけて一緒に家の中に入ると千尋先輩がドアが閉まった途端に岳斗の肩を引き寄せた。
「岳斗…」
名前を呼ばれたのに、それだけでぞくと岳斗の背中が戦慄く。
「千尋先輩…」
じっと千尋先輩の腕の中から見上げると顔が近づいてきた。
ほんといつ見てもカッケェ顔…。
唇が重なって岳斗は千尋先輩の汗ばんだTシャツをぎゅっと握った。
すぐに舌を絡められて唾液が交じり合う。
「ぁ……」
ますます千尋先輩に激しく貪られれば身体に熱がこもって来る。
「んっ……っ!」
舌を突かれ、吸われて、足りなかったと言わんばかりに何度も何度も角度を変え、確かめられる様にキスを求められれば従順に岳斗もそれに応えてしまう。
だって、岳斗だって千尋先輩が足りなかった。
千尋先輩が唇を離した時に交じり合った唾液が糸を引くのにぐわっと恥かしくなる。
「ちひ、ろ先輩…」
思わず真っ赤になった顔を俯ければくっと千尋先輩が笑った。
「……困ったな…」
「…え?」
「1年も我慢出来そうにねぇ…」
千尋先輩からそんな言葉が聞けるなんて!
そんな事思うの岳斗だけだと思っていた。
「お前も来い。俺も来るから」
「……うん」
嬉しい。
ぎゅっとさらに抱きつこうとしたらダメだ、と千尋先輩に離された。
「汗くせぇ」
「いいのにっ!」
煙草の仄かな匂いと汗の混じった匂い。
千尋先輩のだったらなんでもいい。
「…え、と…じゃ、あ、の、シャワー…」
「ん」
靴を脱いで家の中に入ってくる千尋先輩に自分の家にいるのが信じられない。
「あ、洗濯!明日しとくから!そしたら夜まで渇くでしょ?」
「…ああ、サンキュ」
千尋先輩が目を優しく細めて岳斗の頭を撫でた。
「これ、お前が…?」
「…え、と…うん……。だけどっ!その、初めて、作った、から…分かんないよ!あ、でもタレとか市販のだからっ!…多分、大丈夫…だと、思うけど…」
テーブルに並んだ料理にシャワーを上がってきた千尋先輩が目を見開いて見ていた。
「…初めて…?」
「…うん。お母さんに手順教えて貰った…」
千尋先輩が点検するように岳斗の手を取って眺める。
「ちょっと火傷した位だよ?え、と…大丈夫だから、あの…あんま、美味くねぇと思うけど…食べて…?」
照れくさくて千尋先輩を見られない。
これじゃホントに尚先輩が言ってたみたいじゃないか。
「岳斗…」
千尋先輩がまた抱きしめてくる。
なんか、スキンシップが多い、気がするけど…。
「どう、したらいい、かな…?」
ぼそりと千尋先輩が呟くのに首を傾げた。
「どう?」
「可愛すぎだろう…」
な、何言ってんの!?
「千尋先輩!いい、から!ね、はい!座って!」
恥かしすぎる~~~!
自分でも食べれば美味しいとほどでもないけど、普通に食べられる位でほっとした。
けれど、それに千尋先輩が美味い、と言ってくれるのにまた逃げ出したくなってくる。
嬉しいは嬉しいけど複雑だ…。
恥ずかしいし、作ったってほどじゃないとも思う。
頑張ってもっとちゃんと料理覚えるようにしよう!と岳斗は意気込んだ。
だって1年したら千尋先輩と一緒に…。
それまでにちゃんと覚えないと!
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