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熱視線 譚詩曲~バラード~4

 「いいけど、お前のお父さん、なんか夏休みもずっと…って知ってたけど?」
 「うん。木田さんから連絡いってたんじゃない?俺が二階堂 怜だけが特別なのは家の人皆知ってるから」
 怜が、ん?と眉を寄せた。
 「前に言ったでしょ。夏休み中ずっとピアノに向かってたって。それ知ってるから」
 怜は苦笑する。
 「…それだけだったらよかったんだけどな…。ま、いいや。一緒に住む問題は解消だ。で、うちの方だ」
 明羅は宗が言ってた怜と宗の父親の事が気になっていたが問えずにいた。
 前にも怜が親父から電話があってと様子がおかしかったのも引っかかっていた。
 それに怜のお父さんの会社は母のスポンサーでもある、と事情が複雑に入り込むような気がしてならない。
 怜がじっと明羅を観察するように見ていた。
 「な、何?」
 「いや、佐和子さんに似てるか、と思って。佐和子さんよりも綺麗系だが。……親父は才能持っているやつとか、出来る人間しか興味がないんだ」
 明羅は黙って怜の話に耳を傾けた。
 今まで怜の事情を聞いた事などなかった。それを話してくれるというのは内側に入れてもらえたようでやはり嬉しい。

 「仕事人間でもあるし、小さい頃など顔も見た事ない位だった。俺の母親は資産家の一人娘で病気がちな弱い人だった。俺を生んで余計弱くなったらしいが。そんな母を放って仕事、な人だったから」
 明羅はソファで隣に座る怜の服を握った。
 「ピアノを習わせたのも母親で。誉めてもらえるのが嬉しかった。亡くなったのは俺が12の時だな」
 明羅は首を捻った。でも宗は明羅と同じ年…。
 その疑問を浮かべた明羅の表情に怜も気付いている。
 「母親が亡くなって間もなく宗と宗の母親が来た」
 だからなんとなく微妙なのか。
 明羅が納得する。
 「俺も子供だったから宗を無視したり、とか…」
 怜がばつの悪そうな顔をした。でも、今を見ればきっと心底から互いを嫌っているのではない事は見える。
 「その親父は桐生佐和子のファンらしい。家に帰って来る事がなくても桐生佐和子のコンサートには行っていたらしいからな」
 へぇ、と明羅はただそれを聞いた。
 「だから桐生佐和子は別格。俺が思わずショパンコンクールで予選から残って、勝手にレッスンを桐生佐和子に頼んで」
 なるほど。
 でも今の話だけじゃ怜が電話だけであんなに凹んだようになるのはわからない。何かきっと他にもあるのだろう。
 でもそれを問い質す事は勿論するはずない。
 明羅はただ怜が話してくれるのが嬉しかった。
 思わず笑みが漏れると怜がどうした?という目を向けてきた。
 「…話してくれるの、嬉しいな、と思って」
 誰にも興味も何もない。クラスの誰かの事情を聞いたってきっと何とも思わないだろう。なのに相手が怜なだけで明羅の心情は全然違ってしまう。
 「……どれだけ…」
 特別なんだろう?
 明羅は照れくさくて顔を俯けた。


 日曜は怜のピアノを少し聴いてあとはパソコンに向かい、曲を仕上げ、夜はまた怜にさんざん声を上げさせられ、月曜の祝日もぐずぐずとして過ごした。
 夕方、怜の車に乗せられ、重い体で家に必要なものを取りに行った。
 事情はすでに明羅の父から伝えられていたらしく、すんなりと見送られるのにいいのか悪いのか。
 「ん~~」
 怜さんも微妙な感じらしく車に乗って、明羅と視線を合わせ苦笑をもらした。
 「…ご両親や、家の人騙して嫁にかどわかしてくる気分…」
 「よ、……!」
 微妙な気分のまま車を出して怜が笑った。
 「いや、気分の話だぞ?むしろどっちかといえば俺の方が嫁だろう」
 明羅はじっと怜を見た。
 「なにしろ尽くしまくりだよな?生活から夜まで」
 かっと明羅は昨夜の事を思い出す。
 慣れてもないのに、怜は容赦なく明羅を攻め立てた。
 いや、それは正確な言い方ではないと分かってるけど。
 明羅のいいようにしてくれた、けど。
 でも初心者なのに、じとりと恨めしそうに怜を見た。
 「……動けなくなる、のは、ちょっと…。それに、気絶する、ようなのも、ちょっと…と思うんだけど…」
 「どうしても明羅くんに尽くしちゃうから」
 語尾にハートマークでも浮かんでそうな言い方だった。
 「嫌か?嫌なら…」
 怜が苦笑しながら付け加えた。
 …嫌ではないから、困るのだ。明羅は返事出来ない。
 「嫌じゃないなら慣れてね」
 これは語尾に音符でもついていそうだ…。
 明羅は嫌じゃなくて、恥かしい、だけだから…。
 怜が明羅を欲しいと思ってくれるのならばそれで満足なのだから。
 車から明羅は暗くなった外の色々の明かりが流れる光景に目を向けてそれを眺めているふりをした。
 


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