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再生する羽。 3

 夕方に駅に着くという千尋先輩に岳斗は駅まで出て行った。
 「おかえりなさいっ」
 帰って来た!
 改札口を出てくる千尋先輩にほっとした。
 背が高くてカッコイイ千尋先輩は人の多い駅構内でも目立つ。
 なんかすでに芸能人です、みたいなオーラが見えるんだ。
 周りの人もアレ、誰?みたいな感じで女の子とか普通に見惚れてる。
 千尋先輩は全然意に介していないみたいで真っ直ぐ岳斗の所にやって来た。
 そういえばライブ終わった後とかも真っ直ぐ岳斗の所にきてくれたっけ、っと遠い昔の事のように岳斗は思い出した。

 「わざわざ…?あと行ったのに。どうせバイトは休んだんだから」
 「だって…」
 早く会いたかった、から…。不安だった、から…。
 そんな岳斗の頭をくしゃっと撫でてくれる。
 「…どう、だった?」
 「ああ、いい感じだ。岳斗…バンド組むかも」
 「え!?」
 駅を一緒に歩く。これも一応デートの種類に入るかな…?
 「泊めてくれたヤツとかなり音楽も合って。あっちもバンドと思ってたらしいから」
 「そうなんだ!」
 「ああ」

 千尋先輩はもうスタートしているんだ。
 きっと走り出してしまう。
 岳斗は手を伸ばしても伸ばしてもきっと追いつかない…。

 「叔父貴の知り合いのライブハウスも大きくて。道路の人は多いし…気後れしちまいそうだけど」
 「ない!ない!千尋先輩はないよぉ」
 こつっと頭を小突かれた。
 「俺に神経ないみたいだろ」
 くすくすと岳斗が笑った。
 「…千尋先輩、お家には言ったの?」
 「言った。勝手にしろ、だ」
 そうだろうな、とは思ったけれど…。
 「…でもいつかちゃんと聴いて、見てもらえるといいなぁ…。千尋先輩がどんなにベースが、音楽が好きか、そして凄いか、ってちゃんと分かると思うもん」
 「岳斗…」
 ぐりっと千尋先輩がまた岳斗の頭を撫でた。
 
 
 ライブハウスでバイトしながら、で話は纏まったらしい。
 もう行くのが決定したんだ。
 いつから、というのはさすがにまだだけど、東京に行く回数が増えるという。月に1回か2回か。
 そしてその交通費は高校を卒業するまでは叔父さんが出してくれる、と言ってくれたらしい。
 叔父さんはきっと自分の影響で千尋先輩が音楽にバイクに興味を持って、家との関係に責任を感じているのかも、と岳斗は思う。
 だからこそ千尋先輩を助けてくれるんだ。
 着実にその時が近づいてきている。
 
 「日曜のバイト辞める」
 「え?」
 「週末月に1回2回はあっちに行くから…。でも残りは岳斗の為に空けとく」
 「え…?」
 「……お前、無理してる」
 学校帰りの千尋先輩の部屋。これから岳斗も千尋先輩もバイトだけれど、このちょっとの時間が大事だった。
 岳斗は千尋先輩のベッドに腰かけて千尋先輩は着替え。
 顔を合わせないで千尋先輩にそう言われ、自覚のある岳斗は顔を俯けた。
 そしてさっと千尋先輩が着替えを済ませると岳斗を抱き寄せたのに泣きたくなってくる。

 「無理すんな、言いたい事言えって言ったのに全然言わねぇし」
 言えるはずない!
 だって千尋先輩がプロになるべきって言ったのは岳斗だ。
 勿論岳斗が言っただけで決めたわけじゃなくて千尋先輩もそう思っていたからだろうとは分かっている。
 それでもそれをずっと後押ししなきゃないのに、寂しいなんて言う事出来ないじゃないか。
 デートとか、出かけるのなんてどうでもいい。
 ただ傍にいたいだけ。

 「岳斗、MA-1着て歩けよ。バイク帰り乗せるんだから。もう寒いだろ?アレ、お前がぶかぶかにして着てるのカワイイ」 
 「……着る」
 すりと岳斗は千尋先輩の胸に頭を擦りつけた。
 「お前は何が不安だ?」
 「え?」
 「……行くの1年遅らせるか?」
 「ダメっ!」
 岳斗はぶんぶんと首を振った。
 そうじゃない。

 「…千尋先輩の邪魔になりたくない」
 「邪魔なんてないけど?」
 「千尋先輩は俺の為、なんて考えなくていいんだ。俺は後ろ追いかけるから。千尋先輩は…きっと、ずっとずっと先にいっちゃうかも、だけど…追いかける…」
 「バーカ」
 千尋先輩が岳斗に向かって手を差し出した。
 「手引っ張ってやる。いつでも。……離さねぇから」
 「……うん」
 千尋先輩が後ろを振り返ってくれて岳斗の手を引っ張ってくれる?
 「…大きな手。俺、千尋先輩のベース大好きなんだ」
 「…知ってる」
 千尋先輩の顔が近づいてきて唇が重なった。
  
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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