「…お前大丈夫?」
登校途中で尚先輩はほぼ毎日岳斗の隣に並んでくる。
「え?」
そしてたまにはバイト先の叔父さんの酒屋にも来る時だってあるんだ。
「なにが?大丈夫だけど…?尚先輩こそ。受験でしょ?」
「推薦ですから」
「………尚先輩頭いいんだ…?」
「一応。それなりに」
尚先輩なら確かになんでも卒なくこなしそうだ。
「…大丈夫って何が?」
「……お前、自分の顔分かってねぇ?」
自分の顔?
思わず岳斗は頬を押さえた。
「千尋は何も言わねぇの?」
「言われるけど…分かんないんだ。無理してるとか、言えとか言われるんだけど」
「……千尋が東京行くのが嫌だ?」
「ううん!だって俺がプロにならないと!って言ったんだもん」
「言ったにしたって嫌は嫌だろ」
「ううんっ!ない」
そんな事言わない!
はぁ、と尚先輩が溜息を吐き出した。
「お前わりと強情だったんだ?」
「強情?…そう、かな…?」
「ああ、自分の気持ちにまで嘘ついてるくらいだろ」
「嘘ついてないよ?」
だってホントの事だもん。
岳斗はきゅっと唇を噛んだ。
「…辛くなったら言え。千尋に言えなくても俺になら言っていいから。千尋に内緒にしといてやる」
岳斗は黙って首を振った。
「ほら、強情だろ。っとに!…それになんだよ?ソレ」
ぐいと、岳斗が制服の上に着ていたMA-1を尚先輩が引っ張った。
「コレ、ぜってぇ千尋のだろ?デカさがお前のサイズじゃねぇだろ」
「…そだよ」
「くっそ…。っとにムカツク野朗だ」
「?」
岳斗が首を傾げるとなんでもねぇよ!と尚先輩が怒ったように言った。
「なんで怒ってんの?」
「怒ってねぇ!」
…って朝言われたんだけど?と屋上で千尋先輩に言ったら千尋先輩がくくっと笑っていた。
「…っくしゅっ!」
くしゃみをして鼻をすすると千尋先輩の腕が岳斗を掴まえた。
「もう寒いな」
制服だけではもう寒い。
「お前が風邪ひくから屋上も終わり、かな…」
嫌だ…。
ぐっと岳斗は心臓が苦しくなる。
もう11月でここにいられるのは数える位でしかないのに。
「岳斗。ココじゃなくたって会える、だろう…?」
「……うん」
千尋先輩は岳斗の表情をちゃんと読んでいてくれる。
でもココは特別なのに。
「お前が俺を下敷きにした時はまさかこんななるとは思ってもなかったけど」
千尋先輩が軽くキスしてくっと笑う。
「そういやなんで岳斗はココ知ってたんだ?」
「…千尋先輩が授業中にここに来てるの教室から見えたんだ。それでたまに、ホントにたま~にだけど!俺も昼休みに来たりしてた」
「…俺だって分かったんだ?」
「分かるよ?何処にいたって分かるもん」
「俺も今はお前がどこにいても分かるぞ?」
「…うん」
人の頭で埋もれるライブハウスでも駅でも千尋先輩は岳斗を見つけ、真っ直ぐ来てくれた。
岳斗なんて背も埋もれるし見た目だって人の中に埋もれるのに。
「うん」
もう一度頷いた。
ちゃんと千尋先輩は岳斗を見てくれている。
「千尋先輩…?」
「ああ?」
千尋先輩の座ってる膝の中にすっぽりと岳斗が収まって千尋先輩の腕が岳斗の身体を寒くないようにと包んでくれている。
「…大好き…」
「……………帰るか?」
「はい?」
「抱きたい」
ずくんと岳斗の身体が熱を持った。
「や…っ……そ、んな事…言われ、たら…」
「お前もしたくなる?」
だからっ!どうしてそんな事ばっか言うかな!?
「岳斗…」
千尋先輩が岳斗の顎をすくってキスをしてきた。
軽いキスじゃなくて、舌を絡める濃厚なキス。
ますます身体が熱くなってきたのに身体を捩る。
「ぁ……ち、ひろ、せ……ぱい…だめ、だよ…」
「だめじゃないだろ?……岳斗、感じた?敏感だもんな?」
「違うよっ!……千尋先輩だから、だもん…」
千尋先輩の手が岳斗のちょっと勃ち上がってしまったものに触れてきて、岳斗はもじもじと身体をよじってしまう。
「舐めるか?」
「や!いいってば!」
だから!放っておいてくれればいいのに!なんでわざわざ刺激する事言うんだろう!
腕の中から千尋先輩を睨むと千尋先輩はくっと笑うだけ。
「そんな顔尚に見せるなよ?」
「え?尚先輩?なんで?」
「なんでも」
そう言って千尋先輩が軽くキスした。
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