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2012.09.02(日)
「電車で行く」
「送ってく」
「…………お願いだから…。俺、怜さんの負担になりたくない」
明羅は玄関先で俯いた。
「毎日そんな事するなら…怜さんの時間削るなら…家行く」
帰る、と言わなかった事に気付いてくれただろうか?
「…弁当だって…負担なのに…」
「それは別に余ったやつとかだから…………はぁ…分かったよ」
怜は頭をがしがしと搔いた。
「…まったく、全然甘えてくれないよな」
こんなに甘えてるのに?
怜が明羅にキスした。
「身体は大丈夫か?」
「…大丈夫」
「ん…。じゃ、いってらっしゃい」
「…行ってきます」
「あ、帰りは迎え行くから」
「だから!」
明羅が断ろうとしたが怜が止めた。
「今日生方と外で打ち合わせがあるから。そのついでだ」
「…それなら…」
明羅はこくんと頷いて小さく行ってきます、と言って怜の家を照れながら出た。
通りなれない道を歩いて駅に向かう。
駅までは歩いて5分位でかなり近いのだ。
身体は昨日はキスしかしてないので身体は平気だ。
まさか自分がこんな事になるなんて思ってもなかった。
怜と恋人同士…。
明羅は一人でかっと顔が熱くなって思わず俯く。
思い出しちゃダメだ…。
怜が与える官能が明羅の脳裏に鮮明に思い出されてくるとますます顔が火照ってくる。
自分では全然淡白だと思っていたのに…。
明羅はぶるぶると大きく頭を振って、急ぎ足で駅に向かった。
「よう。…兄貴のとこから?」
「……ん」
学校の駅で電車を降りる。電車に乗るのは丁度家からと同じ位の時間だ。ただ見慣れぬ風景に新鮮に感じた。
着いた風景は今までと同じだったが、明羅の乗ってきた電車の腺が反対だったのに宗はすぐ気付いてにやりと笑って聞いてきた。
「身体、平気なんだ?」
「………」
相手が宗だければ動揺もしないし全然平気だ。
表情も変えないで明羅は学校に向かう。
しかし言われてばかりも癪に障ると明羅は宗を見た。
「……宗って、怜さんの事好きなの?」
「はぁっ!?」
宗が大きな声を上げた。
「だから俺の事が気になるんだろ?」
「ばっ…ちげぇって」
「………ふぅん」
してやったりと明羅は口端を緩めた。
「お兄ちゃん取っちゃってごめんね?」
ふふん、と鼻で笑って明羅はさっと学校に入っていった。
学校を終えるとすぐに明羅は荷物をバッグに詰め教室を出た。
廊下に出ると宗がすでにいた。
「…兄貴来るのか?」
明羅は頷いた。
「…ならいいか」
「?」
外に出れば怜の車が止まっていて、明羅が車に乗り込むと怜がお帰り、と迎えてくれた。
その怜が後ろを振り向いた。
「今日は宗はついてきてないのか?」
「いたけど…。怜さんが来てるって分かったらいいか、って言ってこなかった」
ふぅん、と怜が頷いて車を出した。
「お前はまだ高校生だし表には出さない約束にしたが、よかったか?」
「……うん。いいけど…。その、さ…俺じゃなくて、ちゃんとクラシックのとかにしたら…?やっぱりショパンだと思うんだけど…」
「いや、それなら出さない」
むっと明羅は黙ってしまう。
「…なんで?」
「なんで?お前がそれを問う?だから、お前の曲は俺の為の曲だ。だからに決まっているだろうが。まぁ、それはもう曲げるつもりはないからいいんだが…。お前名前そのまま桐生 明羅で出す?」
「……うん。怜さんと名前が並ぶなら」
「…………あんまし可愛い事いうな」
むっと怜がハンドルを握り、前方を見たまま表情を引き締めた。
名前の事は親の事を思って聞いてくれたのだろう。苗字を始めに告げなかった事で複雑な明羅の気持ちを怜は知っているのだ。
「……名前、どうしても親の、ついてくるから…。逃げても仕方ないかな、と。怜さんいてくれるなら…。頼って、だめ?」
信号待ちで怜がハンドルに突っ伏した。
「…お前それ計算してるのか?」
「…何が?」
明羅は怜が何を言いたいのか分からない。
「…だよな。…はぁ」
「………だめ、だった…?」
明羅は顔を俯けた。
「だめ、だろう…。お前が目の前にいて我慢出来なくなるだろうが」
「な、何…言って…意味、分かんない」
かっと明羅は顔が熱くなった。
「ん~。自分でもつくづく馬鹿だと思うが。……仕方ないな」
怜が片手を伸ばして、大きな手で明羅の頭をぐりぐりとかき回して髪がぐしゃぐしゃになる。
「ちょっ…ひどい」
怜はくすくすといたずらっ子のように笑った。