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再生する羽。 5

 「岳斗、クリスマスは予定空けとけよ?」

 そう千尋先輩に言われたのはいつだったか。
 11月の1週目?
 言われたけどそれ以降は何がどうと言われていなくてどこかに行くのか、何がどうなのか岳斗には全然分からなかった。
 とりあえず勿論予定なんか何もないのでいいけれど。

 毎日学校帰りにちょっとだけでも会う様にはしていた。
 だって期限は迫ってきているんだ。
 刻一刻と。
 ゆっくり会えるのは千尋先輩が空いている日曜日だけ。
 それも東京に行く時があれば潰れるけれど…。

 千尋先輩は東京に行って何をしているのかをあまり話してくれない。
 岳斗が聞いてもうやむやに濁されてしまうのだ。
 ベースは必ず持って行ってるから話が合ってバンドを!と言ったギターの人の所だとは思う…けれど。
 なんで話してくれないのだろう、と引っかかりはするけれど、千尋先輩を信じていないんじゃない。
 岳斗の事を考えてくれているのが見えているから。

 でも話をしてくれないと全然岳斗にはわからないのに…。
 そう思ってもしつこい、と千尋先輩に思われるのも嫌で話をかわされれば岳斗はそのまま黙ってしまう。
 毎日会っても少しの時間。
 仕方ない。仕方ないけれど…。

 それに日曜日も大体が千尋先輩の家なんだけど、千尋先輩のご両親が出かけちゃえばどうしてもえっちになだれ込んでしまってやっぱりあんまり話が出来ない。
 それが嫌なんじゃない。
 それ位岳斗を欲しいと思ってくれてるのが分かれば嬉しい事でしかないし。
 岳斗だって千尋先輩の体温を感じられれば嬉しい。
 貪るように求められればそれくらい欲してもらってるんだ、と思えるんだから。



 12月に入った頃またクリスマスちゃんと空けてるか?と確認されたのに岳斗は頷く。
 千尋先輩にそんな事言われたら空けるに決まってる!
 だってクリスマスを一緒に過ごそうって事でしょ?
 そんなの万が一38度の熱が出てたって無理するに決まってる!

 クリスマス…?
 はっと岳斗はクリスマスプレゼント!!!っと何も考えていなかった事に気付いた。
 千尋先輩は東京に行っていない日曜日。岳斗はバイトもなくて時間を持て余していたけれど、わたわたと買い物に出かける事にした。
 千尋先輩のMA-1はもうずっと着てる。
 だって千尋先輩の腕の中にいるみたいだから…。

 プレゼントにあのラッピングされたTシャツが頭をよぎったけどやっぱあれはない、よな…。
 ちょっとバイトしてリッチだし…、と岳斗は何がいいかな?と色々な店を見て回る。

 「あ…」
 ごついリング。
 天使の羽が開いてる。
 天使の羽が開いて指を囲むようになっているデザインだった。 

 「そちらサイズフリーになってますよ?お出ししますか?」
 「え、と…はい」
 出してもらって見せてもらう。
 値段が……Tシャツどこの比じゃないぞ?
 一か月分以上のバイト代が飛んでく位だ…。
 でも…やっぱり…。
 「…下さい。あの…プレゼント用、で」
 「畏まりました」
 案外簡単に決まったけど…。
 …………………バイト、がんばろ。

 千尋先輩は普段指輪なんてしてないから、指輪をするかどうかなんて知らないけれど、とにかく岳斗の中で天使の羽は千尋先輩だったからどうしても目が惹かれてしまう。
 岳斗の勝手な思い込みなんだけど!
 
 まぁいい買い物したかも、と岳斗的には満足した。
 あとは千尋先輩が喜んでくれるかどうかだけだけど。
 小さな袋に入ったそれを岳斗は大事そうにして持ち帰った。
 これはちゃんと渡さないと!
 ラッピングされて放置されている可愛そうなTシャツ。
 そこに仲間入りしないようにしないと。
 
 家に帰ってきて岳斗はラッピングされた箱を眺めた。
 東京に行っている千尋先輩からは連絡はまだない。
 いつも千尋先輩が連絡をくれるのは最終の新幹線の前だ。
 そんな遅い時間まで何してるんだろう…?
 働いてる?
 でもそうなら仕事だって言ってくれるはず。

 どうも違うんだ。
 千尋先輩の口から出てくるのはギターの人だけ。
 土曜日から行って、この人の所に泊めてもらってるらしいけれど。
 バンド組むかも、って言ってたからその関係だろうか?
 でもそれならそれで教えてくれてもいいと思うんだけど…。

 ちょっといやかなり気になっているんだけど、そう見えないようにしていた。
 なんでも言えって言ってくれるけど、これは聞いても教えてくれなさそうな気がする。
 だって千尋先輩からいつも話題を避けられるんだから。
 岳斗には話す事もしたくないんだろうか…?
 千尋先輩には見えないようにしていたけれど、それが岳斗は凄く気にしていたし悲しかった。 
 
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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