12月に入ってからは千尋先輩は日曜が全滅。
千尋先輩は金がかかるから、と高速バスで東京間の移動をするようになって、金曜の夜出発、月曜日の早朝到着というハードな週末を送っていた。
悪い、と岳斗に謝りつつ、絶対24、25日は空けとけ、と何度も何度も確認していた。
その24日。クリスマスイブ。
1泊の用意しとけ、と言われて岳斗は着替えなどつめた鞄を手に、そして千尋先輩はベースを持って朝早くから岳斗は何も事情を把握しないまま駅で待ち合わせをして、そして新幹線に乗せられた。
「え、と…東京、行く、の?」
「そ」
「ウチに言ってない!」
「大丈夫、ちゃんと俺が言った」
いつの間に!?
そういえば学校の帰りに岳斗がバイトに行くのに制服を着替えてる間、母親と何か話してる時があった。
母親が千尋先輩がカッコよくて話かけてるんだと思ってたけど…。
久しぶりの千尋先輩の長い時間の傍だ。
二人席の新幹線の席に座ってすぐに確かめるようにそっと手を繋いだ。
「岳斗…何も話してなくてわりぃ」
囁くような千尋先輩の声が近い。
「…ううん」
分かって千尋先輩がしていた事なら何か意味があるのだろう、と思うから。
「…でも…」
「……寂しかった?」
「ん…」
小さく誰にも聞こえないように岳斗の耳元に囁かれる千尋先輩の低くて甘い声。
くすぐったい。
…キスしたい。抱きつきたい。
「今日、明日はずっと一緒にいられるから」
「…うん」
クリスマスという恋人達にとって大切な日に一緒にいてもらえるなら嬉しくないはずはない。
「けど、新幹線って…チケット代」
「いい。コレは叔父貴から。いつだかの音響のバイト代だって」
「ええ!?あんなの俺適当にしただけなのに」
「あと、本当にお前が音響の方勉強して国家試験でも取って一流になったら格安でたまに来て、だって」
「…出世払い?」
ぷっと笑ってしまう。
音響の専門学校に行く事に岳斗は決めた。
少しでも千尋先輩の近くにいられるように。
少しでも千尋先輩が理解出来るように。
でも今日と明日、ずっと一緒にいるっていったのに千尋先輩はベース?
岳斗と一緒にはいるけど何かギターの人と練習でもするのだろうか?
千尋先輩はもう眠くなったのか岳斗の肩に頭を傾けて眠っていた。
毎日遅い時間までのバイト。
週末も高速バスで移動だし、きちんと寝られていなかっただろう。
肩にかかる千尋先輩の頭に岳斗も顔を寄せ、そして手で千尋先輩の長い髪を撫でた。
仄かに香る煙草の匂いもフレグランスの香りもいつもと一緒。
こんなにゆっくり千尋先輩を感じられたのは本当に久しぶりで自然と岳斗の心がうきうきする。
岳斗は鞄の中に入っているはずのプレゼントを確かめたくなった。
ちゃんと入ってるよな?
うん、入れた……はず。
千尋先輩の頭があるので動けなくて不安が一瞬よぎるけれど、記憶を巻き戻して岳斗は頷いた。
「……千尋先輩…」
大好きな人。
これからもずっと一緒にいたい人。
「大好き、だよ…」
寝てるから聞こえないはず。
いや、起きてたって別にいいけど。
「嬉しい…」
繋いだままの手を確かめるようにきゅっと力を入れた。
大きい手。
千尋先輩の手が、体温が温かい。
「岳斗」
呼ばれてはっとしたら目の前にかっこいい千尋先輩の顔。
「え?」
一瞬どこだっけ?ときょとんとした。
「もうすぐ着くぞ?」
あ!新幹線の中でした!
岳斗もつられて一緒に眠ってしまったらしい。わたわたと慌てたら千尋先輩に笑われた。
「そんなに慌てなくてもまだ大丈夫だ」
なんだ、とほっと岳斗が溜息を吐きだす。
千尋先輩がいる。
目の前の存在に思わず笑みが零れてしまう。
嬉しい。
そういえば1泊って言ってたけどどこに泊まるの?
千尋先輩がいつも泊まるって言ってたギターの人の所?
でもその人だって千尋先輩だけならまだしも岳斗までとなったら迷惑だろうし。
全然岳斗は話が見えてない。
「今日ってどこかに泊まるの?」
「ああ」
「…ギターの人の所?」
「まさかっ!岳斗をあんなとこ連れてけねぇよ」
あんなとこ?
首を傾げると千尋先輩は眉を顰めた。
「汚ねぇ」
「…そなの?」
「ああ。俺は行くとこもねぇしホテル代なんかもったいねぇから仕方なく泊まらせてもらうけど、泊まるって言うんでもねぇぞ。雑魚寝」
「…そなの?」
「そ」
本当に嫌みたいで千尋先輩の顔が歪んでいるのに笑ってしまう。
千尋先輩の部屋はいつでも綺麗だし、岳斗の部屋の方が雑然としている。
すぐ手を洗ったりと、千尋先輩は綺麗好きなんだよな、と千尋先輩を伺う様にちろりと見た。
「なんだ?」
「ううん。俺の部屋は大丈夫なのかな、と思って」
「お前の部屋はただ物が多いだけだろ」
大丈夫なんだ、と思わず岳斗はほっとしてしまった。
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先日 坂崎 若様からいただいたイラストと
昨日 みらい様からいただいた尚をギャラリーの方にも追加しました
背後注意でご覧下さいませ(*^m^*)
テーマ : 自作BL小説
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