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再生する羽。 10

 千尋先輩!千尋先輩!

 岳斗は出入り口の方に向かった。
 どっちから来るかなんか全然知らないのに、引かれるように千尋先輩の姿を追った。
 「岳斗っ」
 声が聞こえて岳斗は走っていった。そして千尋先輩の首にぶら下がって声をたてて泣いた。
 「千尋先輩~~~…ばかぁ…なんで、言って、くれな…か、たのぉ…」
 「わりぃ…驚かそうと思って」
 「驚き、すぎ…だもん~~~…」 
 千尋先輩が岳斗の腰を抱きしめた。
 耳には次のバンドの音が聴こえてきた。でもやっぱり惹かれない。
 「やっぱ、千尋、先輩…の、ベース…大好き…」
 「ベースだけか?」
 千尋先輩が岳斗も耳にキスしながら囁く。
 「…全部…だ、よ……」
 キスしたい。今日はまだキスもしてないんだ…。
 「千尋先輩~…」
 耳元にキスの音が響く。

 「…これで今は我慢しろ」
 ぞくぞくと岳斗の背筋が戦慄いている。
 千尋先輩のベースの音でこんなに感じてしまうなんて思ってもなかった…。
 「う~~~……」
 岳斗は手を解いて涙を拭ったけれど後から後から溢れてくる。
 別のバンドの演奏が続いているけれど人はそれなりに歩いている。それでも全然気にならなかった。もうそんなの気にしている余裕もない。
 「来い、メンバーに紹介するから。後帰るぞ」
 「……うん」
 千尋先輩が岳斗の肩を宥めるように抱き寄せて控え室に連れて行ってくれた。

 メンバーの顔を見て紹介してもらったけれど動揺してる岳斗の頭にはなかなか入ってこない。
 とにかくシンセが女性だったってのしか見えなかった。
 …やだなぁ、と一瞬思ってしまう。
 だって絶対千尋先輩を好きになっちゃう…。
 そこにちょっとだけひっかかりを覚えた。
 「何?その子泣いてんの?」
 「コイツいっつもこんな感じだから…」
 ギターの人が笑いながら言えば千尋先輩が返す。

 「いっつもじゃないです」
 「いつもに近いだろ。じゃああと俺帰る」
 「お疲れ~!じゃあと1月入ったら」
 「ああ。ほら岳斗、行くぞ」
 「あ、うん…ありがとうございました」
 ぺこんとメンバーに頭を下げて千尋先輩の後ろをついていく。
 「遠藤さん聴いてくれたかな…?」
 「さぁな」
 千尋先輩が岳斗の手を引いてくれてライブハウスを出た。

 息が白い。
 寒いけれど、全然寒くない。
 繋がれた手が温かい。千尋先輩のベースに心の中が熱を発している。
 すごいサプライズのクリスマスプレゼントだった…、と岳斗は手を引いてちょっと前を歩く人を見上げた。
 「千尋先輩…」
 「ん?」
 「ううん……」
 呼びたかっただけ。
 何処に向かっているのかも知らないでただ千尋先輩に連れられるままついていくと千尋先輩がホテルに入っていった。

 「待っとけ」
 こくんと頷いてまだぼうっとしている岳斗は夢心地だ。
 「岳斗」
 千尋先輩がルームキーを手に戻ってきてそのままエレベーターで上に上がっていく。
 「たいしたことねぇホテルで悪いな。クリスマスなのに」
 「全然っ!」
 「いつかクリスマスに夜景の見える最上階の部屋取ってやるから」
 「………」
 そんなの別にいいのに…。
 部屋に入って千尋先輩はベースを置くとすぐに岳斗を思い切り抱きしめた。
 「岳斗…ずっと…ごめんな?」
 岳はぶんぶんとただ首を横に振った。

 「千尋先輩…」
 キス、欲しい。そしてもっといっぱい…。
 「岳斗…」
 千尋先輩のキス。
 そしてその手がすぐに岳斗の服の中に入ってきて肌を撫でてきたのにもう岳斗の息は上がってくる。
 「ち、ひろ…せ…ぱ……」
 くちゅくちゅと唾液が混じる音を立てながら千尋先輩の手が岳斗の服を性急に脱がせていく。
 さわりと撫でられるだけでぞくぞくと岳斗の身体が官能を訴える。

 ベッドは二つ。
 その一つに千尋先輩に連れて行かれた。
 「だめだ、我慢出来ない…」
 「俺、も…千尋先輩…ほし…ぃ…」
 長い髪の下から千尋先輩の熱っぽい瞳が覗いている。
 「岳斗…岳斗…」
 千尋先輩の舌が身体を辿っていき、手は岳斗の身体中を這っている。
 「ぁあんっ!」
 それだけでもう岳斗はイきそうになってしまう。
 「俺…立派な部屋も豪華な食事もなんもいらない、よ…?千尋、先輩…いてくれる、だけで、いい…んだ…」
 「岳斗…」
 岳斗はにっこり笑って千尋先輩の首に腕を絡めると、また千尋先輩のキスが降ってきた。
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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