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再生する羽。 12

 「あっ!」
 岳斗は届けられた料理の前にプレゼントがあった、と鞄から小さな箱を取り出した。
 「千尋先輩、コレ」
 そっと千尋先輩に手渡した。
 「俺もある。いいか?絶対しとけよ?虫除けだ」
 虫除け?
 岳斗は首を傾げた。
 千尋先輩はベースのケースのポケットから岳斗と同じような小さな箱を取り出した。
 そしてお互いに箱を開けた後顔を合わせてぷっと笑った。

 ごつい、のとカワイイ、の差はあるけれど、どちらも翼のリングだった。
 「なんだ、考える事一緒か?」
 「違うよっ!俺はただ千尋先輩似合うかな、って思っただけだもんっ!」
 「別に意味一緒でいいけど?いいか、つけとけ…。それに誕生日はちゃんとしたのあげられなかったから」
 「そんな事ないよっ!でも、ありがとう…嬉しい……」
 千尋先輩が岳斗の事を考えてくれている。全部…。ライブもそう。

 千尋先輩が岳斗が買ったリングをさっそく嵌めていた。
 「あ、の…千尋先輩…?」
 「ああ?」
 その指…。こくりと岳斗が息を飲んだ。
 千尋先輩がつけてたのは左手の薬指。
 ふ、っと千尋先輩が岳斗を見て意味深に笑う。
 「お前がつけるのは俺がいなくなってからでいい。今つけると尚あたりにバカにさそうだから」
 「…うん」
 でも今なら…。
 そっと岳斗も指輪をつけてみた。千尋先輩と同じ指に。
 「えへへ…」
 頬が嬉しくて上気してしまう。
 「岳斗、バンド名聞いてたか?」
 「ええと…エール・ダンジュ…?って言った?どういう意味?」
 「綴りが ailes d’ange 、フランス語で<天使の翼>だ」

 え…?
 天使の翼…?
 岳斗は大きく目を見開いて千尋先輩の顔を見つめた。千尋先輩はその岳斗の視線をまっすぐに受け止めている。
 前に岳斗が言った事を千尋先輩はちゃんと覚えてくれて、た…?
 他愛のない戯言、だと自分でも思う、のに…。
 そしてつっとまた岳斗の双眸から涙が零れる。

 「…また泣く」
 「だ、って……ホント、に…?」
 「嘘ついてどうすんだ。いいだろ?気に入ってる。メンバーもカッコイイってな」
 千尋先輩がくすっと笑って岳斗の涙を指で掬った。
 「…Linxの最後のライブの時…羽が…散った、って言ったでしょ?」
 「ああ…」
 「…今日…すごい綺麗な、輝いてる羽が…もう出てた…きっと…大きな大きな、翼になる、んだ……綺麗な、真っ白の…輝く…」
 「っとに…」
 千尋先輩が岳斗をがっしりと抱きしめた。

 「そんな事言うのお前位だ」
 「ううん…違うよ…だっていつも千尋先輩はカッコイイし輝いてる」
 「だから、それはお前にだけそう見えるんだろ」
 「違うよ…」
 涙が止まらない…。
 「千尋先輩…どしてくれるの……?」
 「なにが?」
 だってバンドの名前のそんな意味で、指輪もこれで、岳斗の中の特別だった天使の翼が千尋先輩の中でも特別になっているんだ。

 「だって…もう…ほんとに俺…千尋先輩だけしか…いらない、よ?」
 「それでいいだろ?」
 「好きすぎておかしくなりそうなのに…」
 「別にいい。俺だけ見てるなら。…お前がもし他のヤツを見るようになったら俺は俺でなくなる気がしてならねぇよ」
 「……え?」
 「ライブの時だってお前から目を離せない。ちゃんと俺を見てるか確認しないと気がすまない」
 千尋先輩の手が岳斗の頬を撫ぜる。
 「俺だけ見てろ」
 「千尋先輩だけ、だよ…」
 ぎゅっと抱きついた。
 煙草とフレグランスの混じった仄かな匂い。
 これが好き。
 髪をかき上げる姿も、バイク乗ってるとこも、降りた時も、乗せてもらってる時も、ベース弾いてるとこは勿論。
 ふっと笑うときも寝てる時の長い睫毛を見てる時も…。
 全部、全部、なんだ…。

 そして千尋先輩が岳斗の事をそんな風に思っててくれたなんて、もうそれだけで泣けてくる。
 「また泣く」
 「だって…!…泣いていい、って前、に言ったもん」
 「ああ。いい」
 千尋先輩が笑いながら耳や額、頬、鼻とキスしていく。
 恥ずかしいっ。
 「千尋、先輩…」
 キス…。
 千尋先輩の目が笑っている。そして唇が重なった。
 思いがけないプレゼントがいっぱい詰まったクリスマスになった。
 やっぱり会わない期間が多いと一日の濃厚具合が激しいかも、と岳斗は密かに思ってしまった。
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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