学校ですれ違う度に涙が出そうになった。
でも千尋先輩の姿をちゃんと見とこうと思っていつも目を凝らす。
そして3年生がテスト前で一日ずっと学校にいる日が最後の日。
岳斗の携帯にメールが入った。
<寒いけど屋上行くか?>
行くに決まってる!
屋上で千尋先輩と話をするようになったんだから。
すぐに岳斗は弁当食べたら行く、と返信する。
本当はお弁当も持って行きたい所だけど。
千尋先輩が岳斗の差し出したおかずにぱくんと食いつくのが可愛くて。
そして毎日膝枕で千尋先輩が寝てた。
たった何ヶ月だけど屋上には千尋先輩との想いが残っている。
岳斗は弁当をさっさと食べて急いで屋上に向かった。
「千尋先輩…いる?」
「ああ」
いつもの場所。
「寒いから、こい」
千尋先輩が岳斗の身体を掴まえて膝に抱え込んだ。
「う~、寒いね」
煙草を吸っていたのかふわりと匂いが漂う。
「よく千尋先輩、煙草の匂いするのにバレなかったね?」
「いや、知ってるだろ。親が教育委員会の上になってるのと俺の成績が悪くなかったのとで黙認だろ」
「……だよね」
「実際に吸ってるとこ見られた事もねぇし」
Linxで目をつけられていただろうに。
屋上には千尋先輩の吸殻が刺さったコーヒーの空き缶。
岳斗の鞄から煙草が出てきた時、千尋先輩は躊躇しないで助けてくれた。
背中に当たる千尋先輩の温もりに岳斗は体重を預けた。
「コレ処分しねぇとな」
空き缶を見て千尋先輩が呟いたのに岳斗は首を振った。
「ううん。残しといて?俺3年になってもたまにお昼休みに来るよ。そん時にコレ残ってたら嬉しいもん…」
「……またカワイイ事言う」
岳斗の耳元に千尋先輩がキスする。
そして自然に唇が寄っていく。軽くキス。
屋上でこう出来るのも最後…。
「千尋先輩、…もっと、して」
千尋先輩の腕が岳斗の身体を抱きしめて舌が絡まってきた。
「んっ…」
歯列をなぞられ口腔の中を全部味わわれる。
もっと、ずっと、こうしてたい…。
岳斗の手が千尋先輩の制服を掴む。
「ち、ひろ…せんぱ、い」
「ん…もっと…?」
「ん……もっと、ほし…」
「岳斗クン欲張りだから」
「え…?そ、うなの?」
ぷっと千尋先輩が笑う。
「バーカ。俺も足んねぇよ。岳斗…」
寒いはずの身体が火照ってくる。千尋先輩からキスしてもらえるだけでいつも身体が熱くなってしまうんだ。
「岳斗…」
何度も千尋先輩が名前を呼んでくれてキスしてくれる。
最後、なんだ…。
ほろり、と一粒だけ涙が零れた。
「岳斗…」
そして最後に千尋先輩が岳斗の身体を抱きしめてくれる。
「千尋先輩…いっぱい、ありがとう…」
「ああ…学校ではこれで一緒にいられるのは終わりだ。でもこれからいくらでも一緒にいられる。だよな?」
「…うん」
岳斗は笑顔を見せて頷いた。
そして3年生、千尋先輩は学校生活を終えてしまった。
卒業式は岳斗達2年生は学校は休み。
卒業式が終わる頃を見計らって岳斗は千尋先輩の家の前で千尋先輩が帰ってくるのを待った。
「岳斗?」
「うん。千尋先輩、卒業おめでとうございます」
卒業証書を手に千尋先輩が一人で帰って来た。
両親は出席なし。
それは聞いていた。
大学進学もしないで、就職もしないで東京に行くという千尋先輩に言葉の攻撃が凄かったらしい。
これは叔父さん情報だけど。
叔父さんも噛み付かれたと言ってたから。
「…サンキュ。岳斗、第2ボタンいる?」
「いる!いる!いるっ!」
毟り取られてきっとないだろうな、と思ってたのにあったらしい。
ぶちっとボタンを無造作に毟ってはい、と岳斗の手に千尋先輩のボタンが渡された。
また宝物が増えた…。
今日は学校が休みだから岳斗も指にその宝物の一つの指輪をしていた。
それに気付いて千尋先輩が岳斗の手を掴む。
「コレ、しとけよ?」
「…うん」
「とくに!尚にはよく見せとけ」
「?………なんで?」
「なんでも!」
なぜか千尋先輩は尚先輩をよく気にする。
あ、キスされてる…から?
岳斗の中ではもうなかった事になってるのに。
「俺、気にしてないよ?だってアレ、キスじゃないもん!」
「ん?」
「尚先輩の!俺、あん時で記憶あんの千尋先輩のだけ、だから」
「………ちょっと意味違うけど…問題外だという事だな」
「?」
意味分かんない。
「いい。岳斗」
千尋先輩が岳斗の手を引いて家の中に誘った。
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