「千尋先輩、あのね…」
海を見ながら岳斗が口を開いた。
「なんか食べるものコンビニででもいいから買ってその…ホテル、いこ…?」
「…たまにはどっか小洒落た所で飯でも、と…」
岳斗は首を振った。
「そういうの、ホントに俺いい、んだ…それより…千尋先輩とくっ付いていられる方いい…」
だって明日からいなくなるんだから…。
だったら一分でも一秒でも多く千尋先輩を感じられる方がいい。
「………」
千尋先輩は黙って岳斗の頭を抱き寄せた。
誰もいないからこそ出来る事だ。
「……岳斗」
謝りそうな千尋先輩の口を岳斗は手で塞いだ。
そして首を振ると千尋先輩が目で頷いたのに岳斗は笑みを見せる。
寂しい、でも千尋先輩は自分がしたい事をするんだ。そしてそれを岳斗はずっと見ていたい。
なんの為にあのエ-ルダンジュの一番初めのライブに岳斗を連れて行ってくれた?
それ位岳斗は千尋先輩の中で特別なんだと自信にもなった。
それまでは全然話してくれない、と思っていたけれど…。
そして、バンド名も…。
全部千尋先輩は岳斗を大切だと思ってくれている。
忙しくて大変で、普段はあまり話したり出来なかったりするけれど、歌に全部入ってる。
そっと千尋先輩の口から手を離すと千尋先輩が岳斗の肩を抱き寄せてバイクまで戻った。
コンビニで買い物してホテルに。
まだ夕方でうっすら明るいけれど、ここからはずっと千尋先輩は岳斗のものだ。
「千尋先輩」
部屋に入ってすぐにリュックからあのラッピングされた袋を取り出した。
「はい。本当は明日だけど先に渡しちゃうね?ちょっと早いお誕生日おめでとう」
ベッドに腰かけてた千尋先輩にいいかなぁ?と岳斗はちょっと不安に思いながらも渡す。
やっと、やっと渡せた。
「………これ…」
千尋先輩が目を見開いていた。
「あの時、の…だよな?……あとずっと岳斗の部屋にあった、だろ?」
「うん……。ええと、あの日…ソレ目に入って思わず買っちゃったんだ。だけど、尚先輩に千尋先輩の誕生日はもう終わってる、って言われて…それで機会逃してずっと放置になってた。クリスマスも、違う…と思って」
「開けても?」
「うん。あ、でも安いんだ!別なのにしようかな、とも思ったんだけど、やっぱり千尋先輩に渡したい、と思って…」
ごそごそと千尋先輩が袋を開けている。
「…千尋先輩にクロスの意味も聞いて…やめようか、とも思ったんだけど…」
千尋先輩がTシャツのバックプリントを見て固まった。
「ごめ、なさい…着なくていい、から」
「いや……」
十字架に天使の羽。
「……あんな前から、コレ…?」
「え?」
「だってもう半年前できかないだろ、これ買ったの」
「うん…だって翼は一番初めにライブ見に行った時から、だもん…言ってなかったっけ?」
千尋先輩は考え込む様にしてそれをじっと見ていた。
「千尋先輩…?」
そして千尋先輩の前に立っていた岳斗をじっと見上げてきた。
「…お前が許してくれるんだろうか…?」
そう呟いて千尋先輩は自分のいつもつけていたシルバーのクロスのネックレスを外した。
「え?何…?」
「コレ、お前にやる。俺の変わりにつけとけ。…屈め」
そう言われて岳斗が頭をちょっと下げると千尋先輩が岳斗の首にそれをつけてくれる。
「で、でも…!」
これ、バンド組んだときにって…。
「岳斗、このTシャツは着ないで飾っておく。……俺の勝手な…罪の意識が浄化された気が、する」
解放、とまではいかないけれど、何か千尋先輩の気持ちの中が、変わった…?
いつもいつもつけてたシルバーの十字架。それを離して…?
「じゃあ…コレの代わりに今度のクリスマスは天使の翼のネックレス探す!」
「ああ…。…いや、一緒に見に行こう」
「…うん」
へへ、と岳斗が笑うと千尋先輩が岳斗のお腹に頭をつけて腰を抱きしめてきたのに岳斗はよしよしと千尋先輩の頭を撫でた。
「岳斗……お前が俺の全部を許して浄化して解放してくれる、のか…?」
「まさかっ…」
くすっと岳斗は笑った。
「そんなはずないでしょ。千尋先輩は千尋先輩だよ?誰に許しも何もいらないんだよ?縛られることもないし。千尋先輩は自分のしたいようにして?俺はずっと追いかけるから。ずっと…」
「岳斗…」
千尋先輩が岳斗の身体をゆっくりとベッドに引き寄せ横たえるとゆっくりと組み敷いた。
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