買ってきたお弁当食べて、また身体を重ねた。
身体はみしみしで腰はだるいし、中は擦れて腫れているような感じだったけどそんな事どうでもいい。
ただお互いの全部を貪った。
寝たくなかった。
眠りたくなかった。
だって寝たらすぐ次の日の朝になってそうで…。
でも散々穿たれた疲れた身体はいつの間にか眠りに堕ちていってしまっていた。
はっと岳斗が目を覚ますとカーテンから明るい陽射しが部屋に入ってきていた。
4月3日になったんだ。
千尋先輩の誕生日で出発の日。
荷物はもう送ってあって、あとはバイクと千尋先輩の身体だけらしい。
岳斗は目を閉じて震えそうになる唇を噛み締めた。
そしてもう一度ゆっくり、目を開けて隣で眠っている千尋先輩の顔に見惚れた。
眠っている所といえばどうしても屋上を思い出してしまう。
「……千尋先輩、朝だよ?おはよ」
千尋先輩の顔を撫でて、首を伸ばし軽くキスした。
「ん…」
千尋先輩が手を伸ばして岳斗の頭を押さえるとさらに深くキスしてくる。
「誕生日おめでとう」
「……ああ…」
バイクで行くから早くに出ないと東京に着くのが遅い時間になってしまう。
でも出来るならずっとこのままこうしていたい。
千尋先輩の手が岳斗の腰を掴まえて自分の身体の上に乗せた。
いつも見下ろされる側の岳斗が千尋先輩を見下ろす。
枕に広がる髪、革のクロスのチョーカー、その片割れは岳斗の首にかかっている。
岳斗はそっと千尋先輩の頬を手でなぞり、唇をなぞり、髪をかき上げ、その感触を確かめる。
そして顔を近づけてそっとキスした。
…大好き。
何度も何度も。
一回ごとに心の中で大好き、と唱えながら。
「……岳斗」
千尋先輩の腕が岳斗の身体を抱きしめた。
でも何も言えない。言わない。
「送ってく」
「…俺、俺の家から千尋先輩見送るのヤだよ?……50’sでいいよ。家から近いし。千尋先輩の本当の出発点でしょ?」
「………ああ、そうだ、な」
バイクの後ろに乗せられてあっという間に50’sに着いてしまう。
バイクを降りると千尋先輩が携帯を開けて見ていた。
ヘルメットを取って髪をかき上げるところを見るのが好き。
バイクの後ろに乗るのも好き。
千尋先輩の煙草の匂いとフレグランスの混じった香りが好き。
ベースが好き。
…全部好き。
「…Linxのメンバーからそれぞれメール入ってた…」
きっと頑張れ、とかなのだろう。千尋先輩の顔が仄かに緩んでいた。
そして岳斗はライブ最後の日の4人の姿を思い出す。岳斗には入っていけない世界。
千尋先輩は携帯を閉じると岳斗の手を引いて50’sの店のドアに繋がる地下の階段を下りた。
そのドアの前で千尋先輩が岳斗の身体を力強く抱きしめる。
「……行って来る」
「………うん」
「会いに来いよ?」
「うん」
岳斗は泣いていない。
泣かない。笑って行ってらっしゃいって言うんだ。
「追いかけて来い」
「うん」
そして唇を重ねた。何度も、何度も。
「俺、行くから。ライブも見にいける時は必ず行く。俺、大好きだよ?千尋先輩のベース。ベースだけじゃなくて、全部だけど」
「…ああ。………岳斗」
そっと千尋先輩が岳斗の頬を撫で、そして離れた。
岳斗は手を伸ばして千尋先輩を捕まえておきたくなった。でもぎゅっと握りこぶしを作って我慢する。
階段を上がって千尋先輩はヘルメットを被った。
そして革手袋を嵌める。
…出発の時間だ。
岳斗の視界がゆらゆらと揺れてくる。
泣くな!
ぐい、と零れそうになる涙を拭った。
「千尋先輩。いってらっしゃい」
笑えてる?ちゃんと?
「ああ、行ってくる。…岳斗…。待ってる、から」
「うん」
ほろりと涙が零れるのを千尋先輩がヘルメットの下でふっと笑った気がした。
エンジンをかけ、最後に岳斗の頬を撫で、頭をくしゃりと撫で、そして千尋先輩は片手を上げてエンジン音と一緒に行ってしまう。
岳斗は千尋先輩の姿が見えなくなるまでずっと見つめ、そして止め処なく流れる涙に岳斗はもう一度50’sの地下の階段を駆け下りて人目につかないように声を上げて泣いた。
行ってしまった!千尋先輩が!
嫌だ!本当は!
行かないで!傍にいたい!
ついて行きたい!
色々な思いが岳斗の中を交錯した。
「う、あぁぁ……」
階段に倒れ込むようにして岳斗は泣いた。
ずっと、ずっと…。
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