千尋先輩が出発した日。
岳斗はしばらく50’sの前の階段で泣いた。
そしたら尚先輩が来て、静かにそっと隣にいてくれて岳斗の背中を宥めるようにトントンとずっと叩いていてくれた。
泣き腫らした目は何日もしばらくの間続いたけれど、いつまでも泣いてばかりもいられない。
バイトして千尋先輩の所に行くお金貯めないと。
それに受験だから勉強も頑張らないと千尋先輩の傍にも行けなくなってしまう。
新学期が始まって3年生。
もう学校に千尋先輩はいない。
それでもいた痕跡がある屋上に岳斗はそっとお昼休みに行く。
空き缶に刺さった吸殻。
誰も屋上に来ないのか、それがそのまま残っている。
そして声が聞きたくなって電話をする。
ライブハウスで勤めるのは午前2時位までらしい。その後アパートに帰って寝て起きるのがお昼頃なので、岳斗のお昼休みの時間には起きているというので岳斗のお昼休みの屋上での時間は千尋先輩との電話の時間でもあった。
「千尋先輩?」
『ああ』
「おはよ」
『ん。さっき起きたとこだ』
くすと岳斗に笑みが浮かぶ。
『岳斗、GW、来るか?』
「……行きたい!いい…?」
『ああ。ライブもある』
「本当っ!?」
『嘘ついてどうする。あと最後の日は休みもらえそうだから送ってく。バイクだからケツ痛くなるけどな…いや、だめか…前の日出来なくなるな…』
「送るのはいいよっ!バイクで往復なんて大変だから!大丈夫!ちゃんと貯め込んでるもん」
欲しい物も買わないでとにかく貯めていた。小遣いもバイト代も。
『……金出るようになったらちゃんと出してやる』
「いいってば!」
バイトで金貯めとけって言ったのは千尋先輩なのに!
『ちゃんと勉強道具ももってこいよ?』
「うん」
もうちょっと評定が上がると推薦が取られるかもしれないからがんばらないと。
「じゃあ今日も頑張ってね?」
『ああ』
ちょっとだけの電話の時間。でもこの時間が大事だ。
千尋先輩に会いたい。いつもそう思ってる。
「千尋先輩……」
『…岳斗、待ってる』
「うん」
GWに会える!
GW。新幹線に一人で乗って東京へ。
早く会いたかったけれど千尋先輩の睡眠時間を考えて、お昼位に着く様にした。
千尋先輩が駅まで来てくれているはず。
久しぶりの千尋先輩だ。
きょろきょと背の高い千尋先輩を探す。
背が高いし、カッコイイからすぐ見つけられるはずだけど…。
いたーーーーーー!!!!!
岳斗が見つけると千尋先輩も岳斗に気付いた。
千尋先輩だ!千尋先輩だ!
3週間ちょっとぶりの千尋先輩だ!
「岳斗」
抱きついちゃだめかな、と岳斗が躊躇したら反対に千尋先輩ががっしりと岳斗を抱きしめた。
周りが一瞬驚いたようにしているがすぐに無関心で通り過ぎていく。
「…アパート行くか?」
「うん」
初めての千尋先輩のアパートだ。
「ワンルームで狭いぞ?」
「気にしないよ?千尋先輩がいればいいもん」
電車で乗り継ぎ、千尋先輩の後ろをついていく。
道も覚えておかないと!
でも千尋先輩も見たいし!
どきどきして心臓が苦しい。
やっぱカッケェよ……。
電車の中でもお姉さんとかがちらちらと千尋先輩を見ている。
気持ちは分かるっ!
でもベース弾いてるとこはもっとカッケェんだよ!
千尋先輩の目が確かめるように岳斗を見ていた。
岳斗もずっと視線を外せなくて。
早くアパートに着いて欲しい。そうしたら抱きしめてもらえる?キスしてもらえる?
「岳斗、次下りる」
「うん」
あまり会話がない。
だって口開くより見ていたくて。
黙ったまま電車を下りて、道順を覚えながら千尋先輩に連れられてアパートに向かった。
カンカンと階段を上がって二階の階段上がってすぐの部屋。
「岳斗」
ドアを閉めてすぐに千尋先輩に抱きしめられた。
「千尋先輩~~」
岳斗も腕を千尋先輩の首に回してぎゅうっと抱きついた。
足りなかったよぉ…。
そしてすぐに待ちきれないと言う様にキスが降ってきた。
千尋先輩だ。
そして千尋先輩の香りだ。
すんと鼻を鳴らして確かめる。
千尋先輩…。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学