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熱視線 譚詩曲~バラード~7

 一緒に毎日過ごすようになって何日も経った。
 今日は怜がショパンのバラードを弾いていた。
 1番から順に。
 それを明羅はロビングのソファで座って聴いている。
 二階堂 怜の音が溢れている。
 それなのに…。
 明羅は顔を俯けた。

 自分は浅ましいのだろうか?
 自慰だってそんなにしたことなんてなかったのに、怜がキスして触れてくれればもっとして欲しいと思えてしまう。
 毎日一緒のベッドに入って、キスして抱きしめられて。
 でも怜は明羅の学校があるからかそれだけで。
 昨夜の夜は反応してしまった自分が恥かしくて怜に気付かれないように背を向けて眠った。
 怜が毎日一緒にいるのにそこまで自分を求めていないだろうにまさか抱いて欲しい、なんて言えるはずなどない。
 だって自分は立派な男らしい、とは言いがたいけど、それでも女ではないから。
 
 音だけでよかったはずなのに…。
 それなのに満たされないと思うのはどうしてなのだろう?
 我儘すぎる。
 全部負担をかけまくっているのに、それでももっとと思ってしまう自分が恥かしい。
 もっともっと欲しくて。

 自分はどこか歪だ。
 怜が再々言うお坊ちゃま、も分かる。
 何も知らない、と思う。
 料理だって洗濯だって怜の家に来て初めて気付かされた。
 用意されてるのが普通だった。
 いや家の者がしてくれているのは知っていたけど、それをどこか客観的に思っていた。
 それは全部がそうで、怜と一緒にいて初めて気付いたのだ。
 親がいないのが普通で、たまに帰ってくるのが普通。
 それが普通ではなかったんだと、毎日一緒にいてくれる怜に気づかされた。
 それなのにそれで足りないと思ってしまうのは何故なのだろうか?
 寂しいと思えてくるのはどうして…?
 こんなの初めてで明羅は自分を持て余していた。
 今日は木曜日で、明日は金曜日。
 明日なら翌日学校がないから怜は明羅を求めてくれるのだろうか…?
 でももしそうじゃなかったら…?
 
 「明羅?」
 いつの間にか怜がソファの隣に座っていて明羅ははっとした。
 「何難しい顔してる?バラードは好みじゃない?」
 明羅は首を振った。
 「ううん。好きだよ」
 しまった。半分以上聞き逃した。
 「…でも、ごめん…頭の中ぐるぐるして…」
 明羅は正直に告げる。嘘ついてもいい事なんてない。
 「……お前は負担か?」
 「え?何が…?」
 怜が小さく呟いた。
 負担に思っているのは怜のほうだろう。
 「ずっとお前は遠慮ばかりしてるし言いたい事も言わない。明羅が無理するなら…家戻るか?」
 放り出される…?
 「……怜さんが…そうした方がいい、なら」
 明羅は顔を俯けた。心が泣きそうだ。
 「俺がじゃない。明羅が、だ。お前はどうしたい?」
 「一緒にいたいに決まってるっ」
 涙が浮かんできそうだ。
 怜は自分に呆れたのだろうか?
 「ならちゃんと言え。何を我慢してる?」
 明羅は首を振った。
 「我慢なんてしてない。負担になってるのも、我慢してるのも、怜さんの方、でしょ…?」
 「ん?負担とは思ってないな。我慢はしてるが」

 我慢してるんだ。
 明羅はじわりと涙がせり上がってくるのを感じた。
 泣きたくなんかない。
 自分がいる事で怜に我慢を強いているなんて…。
 「………じゃ、帰る…。……迷惑かけてごめんなさい…」
 「おい?ちょっと待て、こら」
 明羅が立とうとしたら腕を掴まれた。
 泣きそうなんだから離して欲しい。
 「明羅」
 怜が明羅の顔を覗きこんだ。
 「なんでそんな泣きそうになってる?」
 「だって!……俺、怜さんに迷惑…ばかりかけて…」
 「誰がいつ迷惑だと言った?」
 怜の声が低くなった。
 「なんで一緒にいたいって言ったのに帰るって言う?しかも帰るだぁ?帰る、じゃないだろ?」
 ちゃんと怜は明羅が前に帰るという言葉を使わなかったことに気付いていた。
 「だって…我慢って…」
 「………お前ね。当たり前だろ。俺が抱いた次の日お前は歩けないくらいに身体に負担がかかるし、お前を預かってる責任もある。抱きすぎで学校休ませたなんて出来るはずないだろうが」
 ……我慢って…そこ……?
 「………したくない、んじゃない…の?」
 「はぁ!?」
 怜が明羅の唇を啄ばんだ。
 「ばか?お前を壊しそうで必死に我慢してたのに」
 「……壊れない」
 怜に放り出されるほうが壊れてしまう。
 「お前は?何我慢してた?」
 「…怜さんが…してくれない、から……そんなに、いらないんだ、と…思って…」
 「………だから、なんで必死に我慢してる俺にそんな事言うかな」
 怜は明羅の身体をよいせ、と担いだ。
 「怜さん…?」
 「ばかな子に分からせてやらないとな」
 にやりと怜が笑った。
 
 

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