「岳斗…」
千尋先輩にアパートの部屋に連れられていくとドアを閉めた途端に抱きしめられた。
「千尋先、輩」
涙は止まったけれど、まだしゃっくりが止まらない。
「岳斗…」
千尋先輩の手が岳斗を確かめる様に顔を撫でていく。
「俺…いて、いい……の?来て、よか…った…?」
「いいに決まってんだろ」
「だ、って…」
「電話は悪い。マジで死にそうな位忙しかったんだ。寝るのもスタジオで倒れ込むように寝るみたいな感じになってて…お前からの電話が分かるようにって外に出してるとアイツが先に気付いて取りやがるんだ」
チッと千尋先輩が舌打ちする。
「……ずっと気にしてた…か?」
こくんと岳斗は小さく頷いた。
「いっつも…千尋先輩の、声じゃなくて…俺、傍いらんない、のに…声聞きたい、のに…いっつも……あの人…なんだ、もん…」
「……もしかしてそれで昼もかけてこなくなった?」
小さく頷く。
「クソアマ……いや、俺も悪いな…。ちゃんと言ってなかった…。あれはドラムの工藤と付き合ってる。幼馴染で、深尾は帰国子女だ。10歳頃から一昨年までアメリカにいた。帰国して工藤と再会して付き合い始めたらしいけど。だから挨拶。近しいやつには男も女もみなああだから気にするな」
でもやだ……。
岳斗が顔を俯けると千尋先輩が岳斗の顔をその大きな手で包んで上げる。
「岳斗…久しぶりだ…」
そしてもう一度しっかり抱きしめてくれるのに岳斗もそっと手を千尋先輩の背中に回した。
「会いたか、た…よぉ……」
「ああ…俺も何度行こうかと思ったか。忌々しい事にまとまった時間がほんと取れなかったんだ。取れてたら行ってた」
「……ほんと…?」
「尚からメール来た時もよっぽど行こうかと思った位だ。岳斗が泣いてるって尚からメール来た時はぶちきれる寸前だった。お前に電話してベース楽しみにしてるって言われてどうにかとどまったけどな」
「………レコーディング、した?」
「ああ。終わった。あとはライブだけだ。ライブは夏休み入ってからだから見られるぞ?」
「…うん」
来ていい、んだ。
「千尋先輩…千尋先輩…」
安心してぎゅうっと抱きついた。
仄かな煙草の匂い。
また泣きたくなってくる。
「また泣く…」
「だって…会いたか、た……」
ちょっと髪伸びた?きっと切りに行く時間もなかったんだ…。
「岳斗…」
千尋先輩が顔を近づけてくる。
キス…。
2ヶ月ぶりだ。
「ぁ…」
千尋先輩の唇、舌、息遣い、熱、…。
身体が蕩けそうになってくる。
息も出来ない位に重なったままの唇。
舌も口腔も全部千尋先輩で埋め尽くされる。
「ち、ひろ…せ……ぁあ……」
足りない、足りない…。
「岳斗…足んねぇ……」
「んっ…俺、も……足んない…」
千尋先輩の全部が2ヶ月ぶり…。
「千尋先輩……千尋先輩…」
部屋に変わらずかけられてるTシャツとつけていてくれた岳斗のプレゼントしたリング。今日は岳斗もリングを嵌めている。
「岳斗…岳斗」
千尋先輩も岳斗の名前を何度も何度も呼んでくれる。
「千尋先輩……あぅ!」
ぐい、と千尋先輩が岳斗を担いだ。
「よく来たな」
「…うん。だって…会いたくて…我慢、出来なかった…」
「俺も岳斗切れ限界だった」
ベッドに運ばれてまたキス。
「千尋先輩っ」
腕を千尋先輩の首に回して抱きしめる。
「好き…大好き……」
「ああ…俺も岳斗いないとだめだ…」
千尋先輩の手が岳斗の服を剥いでいく。
しゃらりと鳴る十字架。
くす、と岳斗が笑った。
「尚先輩がね、このネックレス見て千尋先輩がいるみたいだって」
「ああ…効いてるんだ?」
「効いてる?」
「そ。俺だって気が気でないんだ。岳斗」
「何が?」
「お前が泣いてる時傍にいるのが俺じゃないって事が。尚にお前を取られるんじゃないかと思って」
「なんで?俺欲しいの千尋先輩だけなのに…。俺の全部千尋先輩だけなのに」
「……俺の全部もお前のものだ」
「それは違うもん!ライブしてるときは俺だけの千尋先輩じゃないもん。でも二人でいる時は俺のでいい…?」
「ベース弾いてる時もお前がいないとダメかもしれないな。岳斗がうっとりして、あとは顔赤くしたりしたりしてるの見ながらじゃないと安心出来なくて…。岳斗の反応がいいと安心出来る」
「……なんか違う」
「ちがくない。お前がいないと俺はダメだ、って事だから」
全然そんな事ないのに。いつだって千尋先輩のベースはカッコよくていい音なのに…。
テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学