千尋先輩の変わりにバイトにはシンセの深尾 佐緒里サンが行ってくれるみたいで、岳斗はずっと千尋先輩と離れないでいる事が出来た。
「お前の事はウチのメンバー知ってるから」
「…え?」
…なんで?そういやLinxのメンバーも知ってる、っぽかった。
「俺がいっつも千尋先輩ばっか見てるから?」
「ああ……いや…そうじゃねぇ…。とにかく知ってるから、安心しろ」
う~ん……いいのかな…?
「だから深尾がわざと岳斗からの携帯に出るんだ。それにちょっとしかお前と会ってないだろ?それで余計に岳斗に興味津々なんだ」
よく分からないけど…。
「明日練習あるから…行くか?」
「うんっ!」
千尋先輩のベースが聴けるんだぁ…。
嬉しい…と思ってたらじっと千尋先輩が岳斗を見ていた。
「…なぁに?」
「いや…やっぱお前カワイイな」
尚先輩もそんな事言ってたけどどこが?と岳斗は首を捻った。
翌日、千尋先輩に連れられてエール・ダンジュの練習するスタジオに連れて行ってもらった。
最初は構えてしまって千尋先輩の陰に隠れてしまう。
でも練習が始まってしまえばやっぱり千尋先輩のベースに夢中になってしまった。
そしてさらに千尋先輩のベースが進化してることに気付く。
さらによくなってるってど~なの!?
うわぁ、うわぁ、と鳥肌がたつ肌を摩りながら千尋先輩ばかり見てれば千尋先輩は満足そう。
休憩の時に伝えようとしたらトイレ、といって千尋先輩が出て行ってしまった。
「岳斗クン!」
来たぁ…。
岳斗はちょっと身構えてしまう。
「なんで千尋に天使の翼?バンド名決める時に皆でかっけぇからイイ!って言ったけど、理由は?千尋教えてくれないんだよね」
「理由?ってほどじゃないけど…千尋先輩に天使の翼が見えるから」
「は?」
シンセの人、深尾サンがナニソレ?って顔をして、ギターの人もドラムの人もボーカルの人も同じ顔していた。
「……天使の翼…?悪魔の羽じゃなくて?」
「天使だよ?真っ白で綺麗で輝いてんの!似合うでしょ?」
いやいや、と皆が首を振ってる。
「あっ!コラ、テメ……言ったな?」
戻ってきた千尋先輩が岳斗の頬を引っ張った。
「え?ダメだったの?」
「ダメ、ってんじゃねぇけど」
「なんでかな?綺麗な純白の翼なんだけどな…」
「あー…はいはい、分かった…。それ以上言わなくていい。そう思うのはどうせお前だけだから」
「え~…そうかなぁ…???」
そして千尋先輩にくしゃっと頭を撫でられる。
これも久しぶりだぁ…。
へへ、と岳斗は笑みが零れる。
千尋先輩といるとこんなになんでも嬉しい事ばっかだ!
それを千尋先輩以外の人にじっと見られてるのに気付いて、岳斗は思わずなんだろ?と首を傾げた。
「千尋がって…絶対ナイ。天使はこの子でしょ…千尋がって…」
「?」
「千尋の豹変ぶりにも驚きだけど…まぁねぇ…分かるって言えば分かるけど…クリスマスん時のライブでで分かってた事だけど」
「うるせぇぞ」
「?」
なんの事だろ?
「この曲だけ絶対したいって連れて来た子がこの子には驚いたけど…これ仕方ないねぇ…」
「?」
何の事?と千尋先輩を見上げると千尋先輩は岳斗を見て苦笑していた。
「さぁ、するよぉ!」
呆れたような深尾サンの声でメンバーが元の位置に戻る。
「岳斗はそのままでいいから」
千尋先輩の目は全然変わってなかった。あんなに岳斗の中に巣食っていた不安はもう霧散している。
「千尋!」
千尋先輩が肩を竦めてそしてベースを肩から提げる。
低い位置に構えて撫でるように抱くように…。
愛しそうに弾く姿も変わらない。
音が低く響いて岳斗のお腹に響いてくる。
翼が大きくなってる。
輝きだしてる。
もうすぐ広がるだろうか…?
大好きな千尋先輩の大好きなベースの音。
初めてライブ行った時から全然変わらない思い。
強くなっていた思いだ。
今は離れてるけど、でも大丈夫、だ。
もうあと一緒にいられるようになるまで夏休みとかあるし半年切ってるんだ!
去年は離れるカウントダウンだったけど、今年は一緒にいられるためのカウントダウンだ。
そうだ、考えればいつの間にか一緒にいるようになってもう1年過ぎてたんだ!
1年って早い!
来年までもきっとすぐ。そう思えるようになるんだ。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学