岳斗が卒業で、おめでとうとだけを伝えるはずだったのに岳斗は千尋と一緒について来てしまった。
千尋には歓迎される事だけれど、岳斗の家の人にしたら面白くないんじゃないかと思う。
休みの間もほとんど千尋の所にばかりいたのだから。
それでも帰れとも、来るなとも勿論言えるはずなどない。
新幹線で帰ってきて、帰り足に食事してそのままアパートへ。
すこし収入もよくなって、ベースの仕事も舞い込むようになり、曲も提供するようになって、バンドも順調。
どれもがプラスに進んでいる。
それも岳斗が遠藤さんに千尋のベースがどれだけいいか、を話した事が発端だった。
あれで千尋の事を気にして遠藤さんが聴いていたらしく、バンドもそのおかげで声がかかるようになり、前座などでそれなりに評価されるようになっていた。
そして曲も、いいのがラブバラード…。
どれもこれも起点が全部岳斗だ。
東京に出てきたのだって岳斗の一言で決めたから。
バンドの名前もそう。
曲だって岳斗がいるから出来るんであって、それがメンバーには恥ずかしい奴と言われるけど。
…そういやLinxの時も言われた。
素直に思ったとおりの歌詞を書いてるだけ。メンバーにはバカにされるが、それがいい、と泣けるとファンがつく。
とにかくもう全部が岳斗を中心に回っている。
家の確執も…。
勝手に自分で架していた罪の意識。それを解放したのも岳斗で、わざわざ千尋の家にまで行ってCD渡してどんなに凄いかを伝えて、泣いて…。
ふっと笑いを浮べて、千尋はベッドで疲れて眠る岳斗の髪を撫でた。
いつも無垢な瞳で千尋を見上げている。
いつも視線を逸らすことなく千尋だけを見ている。
ライブでも千尋しか見えていない。
目が好きだ、といつも訴えている。
それが千尋にも、誰にでも分かる位。
ある日突然千尋の身体の上に降ってきたんだ。
屋上で寝てた千尋の上に。
岳斗の方がよほど天使だろうに。
いつまでも純粋で、綺麗な涙を零して。
人の為に動いて。
そして岳斗の小さい身体は千尋を守ってくれている。
岳斗の言葉が千尋の自信になる。
携帯に入った岳斗の声。
去年東京に出てくる時に声を録り合いっこしたやつにどれ位救われたか。
<千尋先輩は凄い!千尋先輩カッコイイ!千尋先輩頑張って!千尋先輩……大好きだ、よ>
何度これを聞いたか岳斗は知らないだろう。
そして今も変わらず岳斗の目は千尋だけを見ているのにほっとする。
離れている間に尚が、と何度思った事か。
再々尚から岳斗がどうしてた、とメールが入ってくるのにも苛立った。
でも岳斗と電話で話せばやっぱり岳斗は千尋しか見えてなくて、会ってもやっぱり千尋だけだった。
「岳斗…」
そっと名前を呼んでキスする。
「ぅ、ん……?ち、ひろ…せんぱ、い…?」
「ああ、悪い…寝てていいぞ?」
「ん…千尋先輩は?寝ない、の…?」
「寝る」
電気を消して岳斗の身体を確かめるように抱きしめた。
これからは離さない。ずっと一緒だ。
「えへへ…これからずっと、一緒、だね?」
「…ああ」
同じ事を思っていたのか。
長かった、1年が。
ぐっと思わず抱きしめる身体に力をこめると岳斗も千尋の背に手を回してきた。
「千尋先輩……大好きだよ?」
「ああ…俺も岳斗が好きだ」
好きなんて言葉じゃ全然足りない。
千尋が生きていく中で必要不可欠なものだ。
全部、全部。
岳斗の全部が千尋のものならいいのに。
今まで自由にならなかったけれどこれからは違う。
「岳斗…いっぱい愛してやる」
キス。
「俺だけ見てろ」
キス。
「他は見るな」
キス。
「…っ!…俺、千尋先輩だけだって言ってるのに!」
そして岳斗からキス。
だって岳斗はその純真な清白な光りを放っているんだ。
人を惹きつける。本人は全然普通だ、と言い張るけれど、それはないと思う。
遠藤さんもかなり岳斗を気に入って学校終わったら自分の弟子にするって言ってるくらい。
業界じゃかなり難しい人なのに。
その人に気に入られた岳斗のおかげで千尋まで気に入られたんだから。
「岳斗…おれを見捨てるなよ」
「何言ってるの?見捨てるの千尋先輩の方じゃないの?きっと飛んで行っちゃうんだ。俺置いて」
「それはない!」
「そうかなぁ…?」
「お前いねぇと生きていけないから」
「……うん。俺も千尋先輩いないと生きてけないよ」
顔を突き合わせて笑い合ってそして唇を重ねた。
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お疲れ様でした(><)
本編はここで終了なのですが、どうしても私が書く気が静まらなくて2年後の話を書きました^^;
続き、という事で明日から27日までお楽しみくださいませ~m(__)m
テーマ : 自作BL小説
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