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翼は輝き、煌いて。 3

 「?」
 なぜか皆の視線が岳斗に集まった。

 新人アーティストとの打ち合わせ。
 千尋先輩と深尾サンもいる。
 「MASATOです。本名は岩村 真人。歳は18歳。よろしくお願い致します」
 ぺこんと頭を下げる新人クン。
 可愛いアイドル系を目指すらしい。

 いいけど、なんで遠藤さんもその他の見知ったスタッフも皆その新人クンと自分を見比べてるんだ?
 岳斗は頭を傾げた。
 でもそんなのはどうでもいい!
 仕事場に千尋先輩がいる、と思えばどうしても岳斗は千尋先輩ばっかりに目が行っちゃう。
 仕事に集中!と思ってもそれは無理だ。
 だってやっぱかっけぇもん!
 煙草を吸いながら髪をかき上げて…。

 う~…どきどきする。

 すると千尋先輩がちらっと岳斗を見てふっと口端を上げると、手元の資料をトントンと叩いた。
 ちゃんと資料を見ろ、ということらしい。
 分かってるけど~…。
 
 今日は簡単な自己紹介を兼ねた打ち合わせのみですぐにそれは終わってしまう。
 その後岳斗は遠藤さんやモニターエンジニアの人達と打ち合わせだ。

 「チヒロー!俺ファンなんです!だから曲、凄いうれしいです!」
 声が響いてきた。
 ちらっと岳斗が視線を向ければ千尋先輩は深尾サンと話してたらしいけど、そこに新人クンが千尋先輩に抱きつきそうな勢いで接近してた。

 あっちは表に立つ人側。岳斗達は裏方。
 立場が違うので岳斗はそんなに簡単に近づけないし気軽にも自分からは声はかけられない。
 …ちょっとやだなぁ、と新人クンが嬉しそうに千尋先輩と話しているのに違和感を覚え、そして恨めしくなる。
 その岳斗をやっぱり見知ったスタッフ皆が見ていた。

 「…なんです?」
 遠藤さんに聞くと、遠藤さんは岳斗の顔をじっと見て、新人クンを見る。
 「やっぱ似てるなぁ」
 え?何が?
 岳斗がきょとんとしたら、他のスタッフも頷いている。
 「あの新人クン。岳斗に似てる。岳斗をもうちょっと綺麗で可愛くして垢抜けさせた感じ?」 
 「…………それって俺がちょっと残念だ、って事ですよね?」
 岳斗がちろっと岳斗と新人クンを見比べるスタッフを見ればあははは~と皆が渇いた笑いを浮べてる。
 「背格好とかクリソツ!」
 「……そうですかぁ?」
 遠藤さんが頷くのにもう一度千尋先輩の方に視線を向けた。でもどうしても視線は新人クンじゃなくて千尋先輩に行ってしまうけど。

 千尋先輩と視線が合う。
 あ~も~…やっぱ好きだぁ…。
 そしてその新人クンはマネージャーさんらしき人に呼ばれて行ってしまったのに岳斗はほっとした。

 「ウチの天使クン、いらっしゃ~い!」
 深尾サンが岳斗に向かってにっこり笑って手を振って呼んでいる。
 千尋先輩の傍には行きたいけど深尾サンの傍には行きたくない…。

 「岳斗、呼んでるぞ?アーティスト様の機嫌損ねるなよ?」
 遠藤さんは千尋先輩たちエール・ダンジュの一番初めのライブも知っているから、そこに岳斗がいたのも勿論知っているわけで、千尋先輩と一緒に住んでいるのも知っている。
 そしてエール・ダンジュのコンサートやライブは全部遠藤さんが担当するのだ。
 岳斗が正式に遠藤さんの元で仕事についてからはエール・ダンジュは活動停止中だけど。

 「ハーイ!うちの天使クン」
 深尾サンが岳斗の頬に挨拶で頬をくっつける。
 「やめろ」
 ぼそりと千尋先輩の声。
 「ほんと千尋って最低」
 そこらへんの会話は小声で。
 「岳斗、ちゃんと話聞いてたか?」
 「…ぅ………」
 思わず岳斗が言葉を詰まらせると深尾サンが呆れたように見ていた。

 「何?また千尋に見惚れてんの?あんた達一体何年一緒にいるの?そんで見惚れるって…」
 はぁ~と深尾サンは外国人のジェスチャーのように両手の平を上に上げて首を振った。
 「そして千尋はなぁにが話聞いてたか、よ。どうせ岳斗クンがちゃんと自分見てるか確認してたんでしょ」
 「…何の事だ?ここは仕事場なのに」
 はぁ~とまた深尾サンが溜息を吐き出す。

 「すみ、ません…」
 そうだ、仕事場なのに…。
 思わず千尋先輩の言葉に岳斗はしゅんとしてしまう。
 千尋先輩と仕事が一緒で、岳斗は浮かれて全然話なんか頭に入らなかった。今日は簡単な自己紹介とかだからいいけど、細かい打ち合わせの時とかだったら配線や電気系統の繋ぎなど重要な事を聞き逃したら大変な事になってしまうんだ…。
 「これから、ちゃんとします」
 「あ~あ!」
 深尾サンが呆れた声を出した。
 「岳斗くん、気にしないでいいんだよ?」
 深尾サンがそう言ってくれたけど岳斗は小さくなって首を横に振った。
 
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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