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翼は輝き、煌いて。 10

 エール・ダンジュの復活コンサートの打ち合わせ。
 ずっと岳斗の顔は緩みっぱなしになってしまう。
 エール・ダンジュの活動中はほぼ岳斗は学校に行ってた時期で、遠藤さんについて仕事するようになってからは活動中止だったから初めてのエール・ダンジュとの仕事だ。
 それでも岳斗はエール・ダンジュの関係者には、ずっと千尋先輩の近くにいたし、遠藤さんの所でバイトもしていたし、エール・ダンジュのメンバーに弄られていたので顔を知られていた。

 「ウチの天使ク~ン」
 深尾サンが必ずそう呼んで岳斗の頬に頬をつけてちゅっとキスの音。
 いつもそれには戸惑ってしまうけど…。
 逃げようとするけれどいつも捕まってしまう。
 「…その天使クンってもうやめましょうよ…」
 千尋先輩の陰から岳斗は小さく抗議した。
 「うう~ん?何か言った?」
 にっこりと笑みを向けられて、どうやら直す気はないらしいと悟る。

 「本当ウチのバンド左右するの岳斗くんよね」
 呆れたような深尾サンの顔。
 千尋先輩は飄々としているけれど、ちらっと岳斗は千尋先輩を見上げる。
 かっけぇよなぁ…と見惚れるだけになっちゃうけど!
 「岳斗!」
 遠藤さんの声に岳斗ははい!とエール・ダンジュから離れて岳斗は仕事モードになった。



 エール・ダンジュの復活コンサートのチケットは発売数分でソールドアウト。とんでもないプレミアがつきそうな勢いだった。
 こんな大きなコンサートは岳斗が仕事についてから初めてで、遠藤さんもぴりぴりしていた。
 スタッフも臨時で頼んだりと機材の山も見た事ないくらい。
 何もかもが桁違いで、改めて岳斗は千尋先輩が凄い人だと認識してしまう。

 それなのにマンションに帰ると咥え煙草で床に胡坐かいて座ってギター鳴らして紙を広げて作曲とか…高校の頃と変わらない姿に岳斗は千尋先輩の背中に抱きついた。
 「なんだ?」
 「んん~~?なんでもないよ?」
 大好きだなぁ…と思ってにこにこして千尋先輩を見ると千尋先輩がふっと表情を緩めて岳斗の頭をくしゃりと撫でる。
 「えへへ…楽しみだなぁ…。俺いっつもただ見る側だったんだけど、仕事で入れるってやっぱり特別だと思うんだ!一緒の空気を感じたい、って言ったでしょ?いくらかでも千尋先輩と同じところにいたいなぁって…」
 「…ああ。岳斗…ちゃんと見てろよ?」
 「……うん」
 言われなくても岳斗には千尋先輩しか見えないから。
 
 リハを繰り返し、モニターをチェックし、打ち合わせ、修正、と岳斗も忙しいし、千尋先輩達は取材やなんかも忙しい日々が続いた。


 そしてエール・ダンジュ復活コンサート。
 大きな爆音から始まった。
 爆音と煙幕の中からのエール・ダンジュの登場に会場が揺れる位大きくどよめき、岳斗の背中にぞくぞくと戦慄が走っていく。
 青白い光りがステージを照らしていた。
 大きなバックモニターには天使の翼。
 千尋先輩のベースの音が会場内に響き渡る。
 「岳斗、音が思ったより吸収されてる。もっとあげろ」
 「はい」
 
 千尋先輩が見える。でも遠藤さんの指示も聞こえる。
 一緒に音を作っているんだ…。
 思わず岳斗は感激して目が潤んできそうになる。
 エール・ダンジュは凄いけれど、こうして裏方がいなければこの音楽は成り立たないのだ。

 千尋先輩……!

 千尋先輩は相変わらず派手なパフォーマンスなんてしない。あくまで淡々と。
 長い手足。低い位置に構えられたベース。
 ネックを愛撫するように。
 ベースを抱くように。
 汗ばむ額。張り付く髪を払うように。
 深い、お腹に響く重低音のベースの音。
 時に激しく、時に優しく。
 初めて見た時からその感動は今もずっと変わらない。
 千尋先輩の手、腕、指、目、全部が岳斗には全部見える。
 全部が聴こえる。
 岳斗の肌が千尋先輩の音に粟立つ。

 千尋先輩、かっけぇよぉぉぉぉ……!

 そして千尋先輩の背中の翼が大きなステージでゆっくり翼を広げていくんだ。
 真っ白の翼。
 輝いて煌いている。
 光りを放って。
 飛び立とうとする翼に岳斗が下から手を必死に伸ばして、そして千尋先輩が手を伸ばしそれをがっちりと掴んで引き上げてくれる。

 千尋先輩…。
 見えるんだよ?
 真っ白の大きな翼がステージ上に広がって光り輝いているのが…。
 やっぱり岳斗の目からは涙が零れてしまう。
 それに千尋先輩が気付いたのか気付かないのか…。
 千尋先輩のベースの音がさらに甘くなった。

 千尋先輩、千尋先輩…。
 翼が…輝いて、眩しいよ…。
 大好きなんだ。
 岳斗はずっと変わらないよ?
 ずっと見てる。
 千尋先輩だけ…。 
 
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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