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桜誘う桜守 2

 授業中も休み時間も歯の痛みは治まらない。
 「ホントひどそうだな」
 ずっと桜は右頬を押さえたままで手を外せない。外したらもっと痛くなりそうな気がして。

 「そういやお前、今日誰だかチャンに告るとか言ってたのは?」
 「こんなんじゃ無理」
 「まぁ、賢明だな。どうせ告ったって玉砕に決まってるし」
 なんで決まってんだよ!?と言い返したいが何しろ歯が痛くて無理。
 「…マジひでぇんだな?言い返しもできねぇ位」
 ぷぷっと黒田が笑っている。

 腐れ縁の黒田とは小学校からずっと一緒で同じクラスになっていないほうを数えた方が早いくらい毎日顔を突き合わせている。
 「そういやお前んちの近くの歯医者の先生亡くなったんじゃなかったっけ?」
 「孫が来てやってるらしい。朝、母親と撫子が言ってた」
 歯が痛くて憂鬱だ。

 「ま、その歯が治るころには告るのも止めんだろ?」
 「…やめねぇよ」
 「バカだねぇ。どこの世界に自分より可愛い男と付き合うオンナいるんだよ。よっぽどの年上の女か男位だ。お前連れて歩いて喜ぶのは」
 むっとして桜は黒田を睨んだ。
 しかし、歯が痛くてその気力もすぐに引っ込んでしまう。

 「イテェ…」
 「歯医者に行くしかないな」
 「ヤダ…」
 「明日になったらもっと痛くなるぞ?」
 朝、母親に脅され、さらに黒田にまで言われて、これ以上痛いのは耐えられなさそうだ。
 「…ガッコ終わったら行く」
 「ああ、その方いいな。……歯医者行った事ないのに嫌いって」
 また黒田がぷっと笑う。
 腐れ縁で桜の事はよく知っているんだ。
 「いてぇぞぉ~…」
 ぶくくと黒田が馬鹿にしたように笑っていたけど、ホント相手出来ない位痛い。
 

 学校をやっとの事で終えて、仕方なしに桜は言われた通り、家の近くの歯医者に向った。
 家から歩いて5分もかからない。
 「ああっ!!!」
 嘘!
 木曜日の午後が休診日になってるじゃないか!
 「マジ、かよ……」
 この痛さを明日まで…?
 やっとの思いで意を決して来たのにこれでは倒れそうだ、と桜は歯医者の入り口の前で途方に暮れた。
 気が狂いそうな痛さだ。頭まで痛みが回ってきて、もう首から上が全部痛い気がしてくる。
 歩く気力もない…。

 桜は歯医者のすぐ向いの公園によろよろと入っていった。
 今日は曇っていて今にも雨が降り出しそうだからか公園に子供の姿もない。
 ブランコに頬を押さえながら座っていると小さい頃の微かな記憶が甦ってくる。
 あれはお父さんが死んだ日か…?次の日か?
 ここでこうして一人でぽつんとブランコに座っていた。
 ブランコを漕ぐのでもなく、ただ座ってただけだったはず。
 子供が一人で遊んでるのでもなくぽつんといたのに声をかけてきた人がいたはずだ。

 「どうした?」
 そう、こういう風に。
 どんな人だったか、何言われたか忘れたけど。
 「おい?どうした?具合でも悪いのか?」
 あ?
 ホントに声かけてきた人がいたんだ。
 桜は俯いた視界に大きい靴があったのを見て、はっと桜は顔を上げた。

 「歯…痛い…」
 思わず我慢出来なくて本当の事を言ってしまう。
 「ああ?………君、草刈さんちの桜か?」
 「え?あ、うん」
 「なるほど…」
 くっくっとその男の人が笑っていた。
 「おいで」
 おいで~!?
 「無理っ!」
 今までそう声をかけてこられたことは何度もあった。
 勿論そんなのについて行った事なんて一度だってない。

 走って逃げるか、それとも投げ倒すか。
 相手は身長もあるしかなりガタイがいいけど…。
 それより動いたら歯の痛みが増しそうな気がする。
 「無理?歯痛いんだろう?病院休診だけど特別に治療してやるぞ?」
 「あ、ああっ!?」 
 あ、じいちゃん先生の孫か?
 「ま、まじ!?」
 「ああ。かなり痛そうだから…特別だ。あ、誰にも言わないように。休みでもしてくれるご近所さんに思われたら敵わないからな」

 こくこくと桜は頷いた。
 この痛みを消してくれるならちゃんという事聞く!
 「じゃ、おいで」
 そう言ってその人が医院のほうに向かうのに桜はついて行った。
 「自宅の方から入るから。入り口は誰見てるか分からないし」
 治してくれるなら何でもいい。
 でも確かに田舎だから、休みでもしてくれると聞いたら近所のじいちゃん、ばあちゃんは休み関係ナシにくるかもしれない。
 ありえる、と桜は頬を押さえながらこくこくと頷いた。
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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