「いいなぁ…」
ぼそりと桜が呟いた。
「ああん?何が?」
昼に弁当を食べ終えてから思わず出た桜の言葉に黒田がすぐに反応した。
「いやぁ、歯医者の先生がさ~~、かっけぇの!俺、あんな風になりたかった…」
「どんな?」
「背高くて!!身体がっしり筋肉質で、でも太くないし、鼻高くて、目切れ長で」
「…………お前の真逆だな」
がりがりと桜は頭をかいた。
「そう!」
「桜ちゃ~ん、呼んでるよ?」
女子の声にうん?と桜と黒田が廊下に視線を向けた。
「あれ誰?」
「サッカー部の奴じゃないか?」
桜が聞くと黒田がすぐに答えをくれる。
身体のデカイ奴が廊下に立って桜のほうを見ていた。
「…また告白じゃねぇの?」
「はぁ?ったく、俺、男だっつうの!」
「しかたねぇわな。オンナよか可愛いし。何その名前を表すかのような桜色の唇」
「ふざけんな」
チッと舌打ちしながら桜は廊下に出た。
「ちょっと話があんだけど」
「ああ?ここじゃだめなのかよ?」
「ここじゃちょっと…」
こいつもでかいなぁ…、と思いつつ桜はついていく。
「あの、好きなんだ」
はぁ、と桜はげんなりする。
連れて来られたのは校舎の影。
「俺、男だけど?こんな成りだし、名前もオンナみたいだけど、ちゃんとついてるし」
「そ、そんなのは…わかって…」
「つうか、俺、男なんかと付き合う気ねぇし!無理。キモっ。血迷ってねぇで、ちゃんとオンナ見つけたら?なんで共学なのに男の俺?ありえねぇだろ」
ふんっと桜は鼻息を荒くしてすぱっと切ってやる。
「ったく…時間の無駄だってんだ!」
言い捨てて桜はずかずかと大またで歩いて教室に戻る。
まったく高校入ってからヤローからの告白何度目だ?ホント呆れる。
「桜ちゃん、断ったの?」
「決まってんだろっ!」
教室に戻った桜に向かって女子から声がかかるのにも桜は頭を抱えたくなる。
「え~!もったいな~い!でも襲われなかったのぉ?」
「ああ、大丈夫大丈夫、こいつこれで柔道黒帯だから。アイツ位投げ飛ばせるでしょ」
黒田が桜の肩を組みながら女子に説明する。
「え!黒帯!?柔道!?信じられない!似合わない!…っていうか、やっぱ桜ちゃんは黒田がいいの?」
「ハァ~!?」
桜の顔が思いっきり嫌そうに歪んだ。
「勘弁して!いくら桜の顔が可愛くたって俺は男には興味ないから」
「俺だって地球が滅んでもお前とはありえねぇ!!!」
あははと笑いながら答える黒田と本気で嫌がる桜になんだ、と女子は興味を削がれたらしくそれ以上はさっきの告白にも話題をふってこなかったのにほっとする。
桜は自分の席に戻ってがっくりとし、頭を抱えた。
「そういやお前、告白するって言ってたのはどうなった?」
「告白?誰が?」
「お前がだろうがっ!」
黒田がバカか!と付け加える。
「もう忘れた」
「…だろうよ」
黒田が桜を見て肩を竦めた。
「本気で誰かを好きになるまでお前、告んの止めたら?」
「本気…?」
「お前が告白してんのはただ単に、だろ?オンナだってバカじゃない。本気かどうか分かるだろ。お前がそんな忘れた、なんて軽く言う位じゃ上手くいかないのも当たり前だっつうの!」
「そうか…?」
「当たり前だ!今さっきお前がされてきた告白よりお前のしてきた告白の方が最低だろ」
思わず桜はぐっと言葉に詰まった。
「好き、ねぇ…」
考えてみたら誰かをちゃんと好きになった事は確かになかったかもしれない。
ちょっといいな、と思ったり、気が利くな、とか、優しいな、とかそれだけだった気がしてくる。
うわ、俺マジで最低…?
でもそん時はいいな、と本当に思ってるはずなんだけど。
「ちゃんと考えろ、バカ桜」
むぅっと桜が口を尖らせた。
桜をバカ呼ばわりするのは母親と撫子と黒田位しかいない。
好き…ってどんな?
何人にも告った事がある。
…どれも玉砕だったけど。
告られた事もある。
…男からしかないけど。
今まで自分が告った女の子を思い出してみると、顔も名前も覚えてるのは一部で、その事実に桜もさすがに自分で自身にダメ出ししたくなってきた。
黒田の言うのが本当のような気がしてくる。
してくるけど…。よくわからなくなってくる。
皆好き、ってどうやって分かるんだ?
いいな、と好きは別?
「…っかんねぇ…な…」
だって桜はいいな、と思った時しか告白しない。だから好き、だと思ったのにそれと違うのか?
う~ん…と思わず唸っていた。
テーマ : 自作BL小説
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