一緒に歩いてスーパーに行って買い物して。
その間に近所のおばちゃんとかに声をかけられた。
先生、と桜ちゃん、で。
小さい頃から勿論桜を知っている人ばっかりで、田舎なここはご近所が皆知り合いだ。
スーパーで必要な物の買い物を終えて理人の家まで戻ると桜は早速キッチンに入った。
制服の上着を脱いでシャツを腕まくりすると理人がエプロンを出してきて桜に差し出した。
「桜、制服汚れるだろう?これ、祖母さんのだけど。使ってない新しいものみたいだから」
タグがついたままのエプロンだった。
それははいいけど。…色が薄いピンク。
「………」
じとりと理人を睨んでしまう。
「ん?」
「………いえ、なんでも」
確かに制服が汚れるのはちょっと、と思い、受け取って身につけた。
「……可愛いねぇ?」
くくっと理人が笑ってる。
いつも理人は桜を見て笑っているけど、それが馬鹿にした笑いじゃないのは分かってる。でも面白くはない。
可愛い言われるのもいつもの事だけど、桜は、はぁ、と小さく嘆息を漏らし、返事もしないで料理にとりかかり手際よく料理を作っていく。
「…理人、洗い物とか出来るの?」
部屋とかは汚くもないし乱雑でもなく、すっきりとしているから出来るだろうとは思うけれど。
「それ位は。料理がダメな位だ」
治療の時に器用な動きをする手なのに料理がダメ?
「頑張れば出来なくはないけど時間がかかるし美味くない」
なるほど、と思わず桜は納得してしまう。
コンビニ弁当とか惣菜より美味くないのか。
「ダシとか入れないからじゃないの?」
「いい。もう自分では諦めたから」
まったく自分でする気はなくなったらしい。一応最初は試したって事か?
キッチンで動く桜の脇に立って理人が見ている。
生姜焼きは母親の直伝だからそれなりに美味いはず。
ちゃんと生姜を摩り下ろしてタレも作っていく。
絶対野菜をあんまり摂っていないはず、と玉ねぎも一緒に炒めて、それにサラダも作っていく。味噌汁も野菜を多めに入れて、明日の分ももつように少し多めに作った。
米もセット。
「…ホント…慣れてるね…」
「まぁ」
感心したように言われればちょっと得意気になる。
「お前食べていかないの?自分で作ったのに」
「いかないよ。食べて帰ってご飯いらないなんていったら撫子に怒られる」
ぷっとまた理人が笑った。
「真面目だな。…いや、でも俺は助かったよ。ありがとう」
「……」
そういえば家の人以外に料理を作ったのは初めてだ。
「おいしいかどうか分からないけど」
桜はなんだか照れくさくなってそそくさと挨拶して帰ろうとした。
「じゃあ、あと来週。それで治療終了だから」
「うん…はい。俺のほうこそ…診察休みなのにスミマセン」
「いいよ。ほら、いい事あったし」
ご飯の事か…。理人がそう思ってくれるのなら桜の心も軽くなる。
「味噌汁、多く作ったから残りは明日でも。ああ、サラダもね。野菜食ってるの絶対少なさそうだから」
玄関先で桜が挨拶と一緒に言えば理人が笑った。
「ああ。ありがとう」
理人が照れくさそうに笑っているのが可愛く見えた。
可愛いって…。背もでかいし、歳もずっと上なのに。
なんとなく落ち着かなくなって桜はぺこんと頭を下げて挨拶するとじゃあ、と理人の家を後にした。
どう、だろうか…?
美味い、と思ってくれるといいんだけど…。
食べてもらって感想を聞きたい気もしたけれど、時間が遅くなっていた。
治療の後にコーヒー飲んで、買い物行って、料理してりゃ、そりゃいつもより遅いだろう。
母親はまだ仕事から帰ってきてないだろうけど、撫子だって心配はしてないだろうけど。
「ただいま」
鍵を開けて家に入ると撫子が玄関に立っていた。仁王立ちで。
「何?」
「…別に。なんでもない。……歯の治療っていつまで?」
「え?来週で終わり。他にも虫歯もないって言ってたから」
「…そう」
「?」
撫子がくるりと桜に背を向けて二階に上がっていく。
なんだ?
何か言いたい事でもあったのか?
でも聞かれたのは治療いつまで???
…それ聞きたかったのか?
訳わかんねぇ。
「めんどくせぇな」
撫子は機嫌悪そうな顔をしていた。
撫子は桜に対しては普段からあんまり機嫌いいとはいえないのが普通だけれど、それでもいつもよりもさらにぶすっとした顔をしていた。
何かしたっけ?
でも何も思い当たらない。
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