家の方に行って先週買ったものを確認すると本当にそのままの状態だった。
「…………」
ジャガイモは味噌汁に入れた分だけで残り4個そのまま、玉ねぎもしかり。
ジャガイモ、玉ねぎ、人参…ときたらやっぱカレー?
「カレーにする?肉とルー買ってくればいいし」
「あ!辛いの食いたい!店の弁当のとかはあんま辛くないし、レトルトのもちょっと…仕方なく食ってたけど」
理人からリクエストが出たのに桜は笑った。
そしてまた理人と一緒にスーパーへ。
本当は香辛料とかも入れたいとこだけど、別になくてもいいか?
でも美味いの…って。
家の持って来るか?どうせそんな使うんでもないし…。
「桜?」
香辛料のところで桜が悩んでいると桜の手に持っているものを理人が覗き込む。
「そういうのも入れるのか?」
「ウチでは一応。でも入れなくてもいいか」
「え!入れた方美味い?」
「いや?どうだろう…?俺もよく分かんないけど。でもグラムマサラは入れると辛くはなる」
「じゃあ買う。あとは?」
「肉は何がいい?豚?牛?」
「豚がいい。え?ルー二個?」
「うん」
小さいルーを桜は2種類選んでいた。
勿論辛口。
「トマト缶も買っていい?」
「……本格的じゃね?」
「え?そう?いっつも入れるけど?」
「………なるほど。説明に書いてる通りに作るけどなんか物足らないのはそういうとこか…」
妙に納得したように理人が頷いている。
「覚えたら?そしたら自分で作れるでしょ?」
「いや、いい。やっぱ面倒……というか、そういう風にして一所懸命作って美味くなかったら凹む」
ぷっと桜はふき出した。
よっぽど理人は自分で作ったのは気に召さなかったらしい。
買い物を済ませて帰ってきて、カレーを作りながらポテサラも作っていく。でも材料があんま変わらないのがちょっと不満だ。
「理人、味、辛さみて?まだ出来たてだから味落ち着いてないと思うけど」
桜は小皿にちょっとルーを掬って理人に差し出した。
理人は桜が料理を作っている間ずっとキッチンの桜の傍でうろうろとしている。
はっきいって邪魔なんだけど、桜が作ってるのに自分は座ってられないとでも思っているのか?
「辛い!美味い!」
そりゃよかった。
今日も桜の制服の上にはピンクのエプロンだ。
…こんな姿も誰にも見せられないと思ってしまう。
黒田に見られたら爆笑されるに決まってる。
似合いすぎる!
…絶対こう言いながら腹を抱えて笑うだろう。
でもこのエプロンは先週1回使っただけなのに、ちゃんと洗濯してアイロンもしてあった。
こういう所、理人はやっぱりきちんとしてるんだ。
それなのに料理できないなんて。
「じゃ、俺、帰るね」
エプロンを外しながら桜が言った。
「かえって悪いな?」
「全然。…その、ほんと…俺、助かったし」
ぷっと理人がふき出す。
「まぁ、誰にしも苦手があるもんだ」
もう理人になら散々情けない所を見られてるから笑われてもいいけどね。
「じゃあ、痛いとか、いつまで経っても違和感あるとか、そういう時はすぐ来い」
「うん…。ありがとうございました」
あ…。
来週からは歯医者、来なくていい…んだ。
治療終わったし。
お礼もなってる…かな?
痛かった時はあんなに歯医者に来るのが嫌で嫌で仕方なかったのに…。
今日は全然…。
むしろ楽しみにしてきた。
治療が終わるから、じゃなくて、理人に美味しいって言ってもらえるかな、とドキドキしながら…。
…きっと虫歯がもう痛くないからだ!きっと!
あの歯を削る音を思い出せばやっぱりぞっとするから歯医者が好きになったわけじゃない。
「本当にありがとうございました」
玄関先で桜はもう一度頭を下げた。
「いや、俺もかなり嬉しかったから。俺のほうこそかえってありがとう、だ」
桜よりも12歳も上でカッコイイ、桜がこうありたい、と思ってるような人にちゃんとお礼を言われるのが照れくさい。
「じゃ」
桜はそう言ってそそくさと理人の家を後にして走って家へと帰って行った。
なんか、なんか…。
来週から行かなくていい、が嬉しくない。
歯医者が、治療が終わったら嬉しい事なのに。
桜はあんな泣きべそになりそうな位歯医者は怖くて嫌いなのに。
なんで…?
歩いても5分の距離だ。
走ったらあっという間に家に着いてしまう。
鍵を開けてだだっと桜は二階の自分の部屋にあがっていった。
不機嫌な撫子の顔なんか見たくなかった。
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