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桜誘う桜守 13

 はぁ、と桜はため息を漏らした。
 「なんなの?お前、溜息ばっかでウザイ」
 「え?ああ…わり」
 「なんだ?もう歯医者は終わったんだろう?それでなんでそんな憂鬱そうなんだよ?」
 「……え?何?」
 どうもぼうっとしてしまう。
 黒田の言葉も聞こえなかった。
 それに呆れたのか黒田はそれ以上何も言わなかった。
 そしてまた桜は溜息を吐き出してしまう。
 
 また木曜日だ。
 密かに痛くなったり、違和感続いたりしないかな、と思ったのに、痛くはないし、いつの間にか違和感も感じなくなってしまった。
 歯はもう何も問題ない。
 歯の治療が終わったのはチョー嬉しい!

 ……嬉しいんだけど…。
 カレーどうだったんだろう?
 残ってる野菜とかは?
 絶対理人は使わないでそのままだと思う。
 それが気になって。
 今日は午後は理人は休みだ。
 土日とか、近所のスーパーに行った時に理人いないかな、と思わず背の高い人を桜は目で探していた。
 理人は惣菜とか買いにくるはずなんだけど、来る時間帯が違うのか近所なのにスーパーで会った事がない。
 なんだ、といつもちょっとがっくりしてしまっていたけれど。
 
 ご飯作ってくれる人もいない、って言ってた。
 またずっと惣菜とか弁当なのかな?
 いや、そうだろうとは思うけど…。
 どうしよう…。
 美味かった…って言って欲しい。
 この一週間ずっと理人の美味しかった、って言ってくれた顔ばかり浮かんでいた。
 行ったらまた言ってくれる…?
 それとも何しにきたんだ?って言うだろうか?
 …というか、行くのが前提で考えてるけど。
 はぁ、とまた溜息が漏れた。
 
 「何?お前、誰か好きなコでも出来たのか?」
 「へ?」
 休み時間なので黒田が後ろの席から椅子を引っ張ってきて、桜の横に座り、じっと桜を観察するように見てた。
 「好き?誰を?」
 「あ?なんだ。違うのか?顔にやけたり、赤くしたり、眉間にしわ寄せたり、って一人で勝手に百面相してるからそうかな、と思ったんだけど。心ここにあらずだし」
 「んなわけない!」

 だって相手は理人だもん。
 12も年違うし、男だし!
 「なぁんだ。ついに桜にも恋が芽生えたのかと思ったら」
 こ、こ、恋!?
 「う、わっ!チョー恥ずかしいヤツ!」
 「え~?そうか?いいじゃん!」

 …そっか、別に恋してるんでもないし、男同士だし、普通に家に行ったっておかしくはないよな?
 友達、はかなり無理はあるけど!
 ほら、お世話になったし、野菜気になるし、それにカレーどうだったか聞きたいし!
 メアドでも知っていれば行ってもいい?って気軽に聞けるんだろうけど。
 よし、やっぱ帰りに寄ってみよう!
 いなかったらいなかったでそれでいいし!

 「っし!」
 桜は自分の中で学校の帰りに理人の家に寄る事に決定した。
 「何?」
 「ううん?何でも?」
 料理を理人に作ってやってた、なんて黒田には言ってないし、言う気もない。
 内緒だ。
 

 理人いるかなぁ?とちょっとドキドキしながら桜は学校帰りに寄った理人の家のインターホンを鳴らした。
 『はい』
 いつもは理人が玄関を開けて出てきてくれたけど、今日は桜が来ないと思っているのかインターホンから声が聞こえた。
 「あの、桜だけど…」
 ガチャンとインターホンが切れるとすぐに玄関が開いた。
 「桜?どうした?歯痛いか?」
 「え?ううん。痛くない。………痛くないと来ちゃダメだった?ダメだったら…帰るけど」
 「いや、そんな事はない。どうぞ?」

 もう何回も玄関は入っているけど、今日は治療もないからなんとなく変な感じがする。
 勝手知ったる他人の家。
 桜はすたすたとキッチンに向かった。
 「桜?」
 「あ、やっぱり全部そのままだ!」
 野菜を、冷蔵庫をとチェックすれば見事に一週間前と変わっていない。
 変わっているのはいつもビールの量だけだ。

 「何?残った野菜が気になって?」
 くくっと理人が笑っている。
 歯の治療がなくたって変わらない理人の態度にほっと安堵した。
 「だって!絶対そのままな気がして!」
 「そのままだな。俺しないし、する気ないから」
 「ちょっと位すればいいのに…」
 カレーの時の材料がそのまま残っている。
 「…材料足せば肉じゃが出来るよ?」
 「マジ?」
 「みりんとか買ってこないとダメかな…。みりんはないみたい」

 そしてまた一緒にお買い物だ。
 
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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