必要な物買っていいから、と理人に言われて桜はみりんとか足りない調味料もカゴの中に入れていく。
「なぁ、理人魚食う?」
絶対魚もあんま食ってなさそうだ。
「食う」
ぶりがあったので照り焼きがいいかな。
あとは和え物とか。
とにかく野菜多めがいい!絶対!
「肉も多めに買って冷凍庫入れとけば?たれ買って炒めて絡めるだけで出来るし」
「おう。買っていいぞ?」
気軽に理人が笑いながら言うけどホントすんのかな?
そう思いながらかごに入れていく。
買い物かご持つのは理人だ。
いつも黙って桜より先にかごを持つ。
別に女の子じゃないんだけど、と思いながらもそのままにしてぽいぽいと理人の持つかごの中に必要なものを桜は入れていった。
「味噌はまだあるよな?使わないと賞味期限切れちゃうよ?」
桜が言えば理人は苦笑してた。
する気はまったくないらしい。
…なんでこんなにうきうきしてんだろ?
理人といるのが楽しい、と思う。
そんなに理人は話するわけじゃないのに。
やっぱ来てよかった!
あら、今日も先生とお買い物?とレジのおばちゃんに声をかけられた。
ホント、だから顔見知りのトコって困る…。
帰りも荷物は理人が持って、それも先週と一緒。
ちら、と隣を歩く理人を桜は見上げた。
背高いよなぁ…。かっこいいし…。いいなぁ…。
思わず羨ましくて見惚れてしまう。
身体いいなぁ…なんかスポーツしてたのかな?
「ね、理人ってなんかスポーツしてたの?」
「うん?ああ。水泳。今も土曜の午後は通ってる」
「へぇ~~~~!俺、あんま泳ぎ得意じゃないんだよね…なんか平泳ぎは沈んでいくし」
桜がごちるとまた理人がくっくっと笑っている。
「じゃあ教えてやろうか?一緒に行くか?俺行ってるとこスポーツクラブだから、俺と一緒だったら連れで入れるし」
「行くっ」
桜は思わず即座に答えてた。
うわ!嬉しい、かも!
「…教えようか?っていう位上手いんだ?」
「一応。インターハイ、国体までは出た」
「すっげ!」
なんでも出来る人なんだなぁ…。
「ずりぃよ」
「あ?何が?」
桜は唇を尖らせた。
「背高くて、かっこいくて、歯医者してる位頭よくて、スポーツもなんて出来すぎ君じゃん!」
「そりゃどうも。桜も料理上手くて美人で可愛くて…」
「それ褒めてねぇしっ!!!」
ぷっとまた理人が吹き出している。知っててわざと言ってるんだ!
「ああ、この間もカレーも美味かった!まさに俺好みの辛さで!次の日も美味かったぞ」
「ん。それはよかった…」
理人の満足そうな顔に桜は照れくさくなった。
照れくさいけど、やっぱり褒められれば嬉しくて顔はにやけてしまう。
コレ聞きたくて来た様なもんだし。
いや、野菜も気になったんだ!
…と桜は何故か自分の中で言い訳してた。
理人の家に帰ってきて、コーヒーを入れながら下準備する。
「理人は自分の事してていいから。ここにいられても邪魔」
「え~…悪いかなぁ?と…」
「悪くないから。……俺、が好きで、やってるんだ、から…」
声がちょっと小さくなる。
理人はきっとこんなタメ口きいても怒らないと思ったけど、本当に全然なんともないらしい。
「桜」
名前を呼ばれてはっと顔を上げると理人が優しい目で桜を見ていた。
「ほんと嬉しいし感謝する。ありがとう」
「そ、そんな、…いいから!ほら、後コーヒーできたら持って行くから!」
桜は理人に真面目な顔で礼を言われたのにどう返していいか分からなくて理人の背中をぐいぐいと押してキッチンから出してやった。
すると理人がまた広い背中を揺らして笑っている。
「お前可愛いなぁ」
これも、真面目にそんな風に言われて桜は顔が熱くなった。
散々可愛い、は言われてきたけど、可愛いの内容が違う!
理人のコレはきっとただの顔が可愛いの意味じゃない、はず。
可愛いは桜の中では決して褒め言葉じゃないのに、なんで今の理人の可愛い、は嫌じゃないんだ?
自分の中がなにかおかしい気がする。
嫌、どころか…嬉しい、だ。
違う!と桜は首を横に振ってキッチンに戻った。
ちらっとリビングに行った理人を見ればなにか書き物をはじめたので自分の事をするらしいのにちょっとほっとしてしまった。
なんか…心臓がうるさいし、気持ちがざわざわして落ち着かない…。
テーマ : 自作BL小説
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