「じゃ、俺帰る…っ…っと……理人の携帯教えて?」
鞄を持った時に思い出して言ってみた。
すぐに理人も携帯を出して番号を交換する。
「今週の土曜日、明後日か?プール行くか?行くなら迎え行くぞ?」
「行くっ!行くのいいけど水着、ぴちっとしたのなんかないよ?」
「いいよ。なんでも。いるものとか後でメールしてやる」
「うん。分かった!」
土曜日は理人とプール!
水泳はあんま好きじゃなかったけど、教えて貰えるならラッキーだ!
「じゃ、土曜日ねっ」
思わず声が弾んでしまう。
当たり前だけど同級生の友達と遊びに行くのとは違う感覚だ。
「ああ、今日はありがとう。味わって食うよ」
「……うん。じゃっ」
やっぱりそんな事いわれたらちょっと恥かしくて桜は手を振って走って家に向かった。
家に着いたらまだ誰も帰ってきていない。
いや、撫子は買い物か?
その間に風呂入っちゃお、と桜は部屋に鞄を置いて先に風呂を使った。
なんかどきどきわくわくしてる。
友達にプールに誘われたりなんかしたら滅多に行かないのに、理人には即座に行くって返事していた。
きっと歯医者での情けない姿を見られてるから、アレ以上の情けない姿はないわけで、それに安心してるんだ、と思う。
理人は笑いはするだろうけど、それでもバカにする事は決してない。
人から言われる可愛い、も中には男のくせに、という意味合いを兼ねてのバカにした可愛い、もあるのに、理人は違う。
嬉しい可愛いって言葉があるなんて知らなかった…。
ざっと風呂を上がって着替えを済ませ、脱衣所を出たら撫子が立っていた。
またも手を腰にあてて仁王立ち。
「なんだよ?」
「歯医者終わったんでしょ!?」
「終わってるよ?」
「じゃあなんで今日もまた先生のとこ行ったの!?」
「はぁ?なんで?行っちゃだめなのか?別にいいだろ。そんなのいちいち撫子に言う事ねぇじゃん」
「なんで桜ちゃんだけ木曜日なの!?診察休みなのに!」
そりゃ休診だってさすがに気づくよな…。
…でも理由はいくら撫子だって言えない…。
「…いいだろ、別に!」
「それに!一緒に買い物ってなんなの!?毎週毎週!」
スーパーのおばちゃんがきっと撫子に言ってるんだ!
「それを!なんでいちいち撫子に言わなきゃないんだ?木曜日の休みの日にわざわざ理人が治療してくれたから、そんで飯作ってやっただけだけど?」
「り、理人っ!?」
撫子が今度は泣き出した。
「はぁ!?わけわかんねぇ!なんなんだよお前!」
「何って!先生好きなんだもんっ!それなのに!」
好きっ!?誰が!?
…撫子が理人をっ!?
「…お前年いくつちげぇんだよ…俺でさえ12なんだからお前15も違うじゃん」
「そんなの関係ないもん!何よっ!桜ちゃんばっかりずるいっ!」
「ずるいって言われても」
「先生ちょうだい!」
「………嫌だね!なんで撫子にあげなきゃねぇんだ?」
むっとして桜が答えた。
「なによ!先生の事好きじゃないなら撫子にくれたっていいでしょ」
「嫌だ!絶対っ!やらねぇ!」
「桜ちゃん最低!」
ぱぁんと撫子の手が桜の頬を思いきり叩いて、綺麗な音が響いた。
「…てぇなぁ…。てめ、なにすんだ」
「先生の事好きでもないくせに!桜ちゃんなんかもう出てって!桜ちゃんがいるからいっつも私は比べられるんだからっ!」
「ああ?俺が理人の事好きじゃない~?好きだけど?そう言えばいいのか?好きだから理人を撫子になんかやらねぇよ!」
出てって、ときたもんだ。
桜はだっと二階に上がって携帯とか財布とか必要な物を持ってまた階段を下りてきた。
「じゃあ、出てってやる!…ちゃんと鍵締めろよ」
一言つけ加えてから、ばんっ!とドアを閉めて桜は家を飛び出した。
さて、出てきたはいいけどどこ行こうか?
黒田の家か?
でも兄弟が小さいのいてうるせぇんだよな、と桜は頭を掻いた。
ここはやっぱり、家から近くて一人暮らしの…。
さよならしたばっかりなのにまたインターホンを押していた。
『はい?』
「あの、…何度もすみません…桜、ですけど…」
すぐに理人がドアを開けてくれた。
「桜?どうした?」
「あの……スミマセンけど…お願いが…」
「お願い?」
「今日泊めてもらえませんか?」
「はぁ?…いや、とにかく入れ。お前、髪濡れてるぞ?」
「うん…風呂上りだったから…」
本日二度目の理人の家の玄関だった。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学