食べ終わった後片づけをして、桜は理人の家の冷蔵庫を眺めた。
…朝ごはんのおかずになりそうなのがない。卵も買わなかったんだ。ハムとかベーコンなんてものもない。困った冷蔵庫だ。まぁ、入ってたっていつまでたってもそのままじゃ買っても無駄だから買わなかったけど、まさか自分がこんな風になるとは思ってもいなかった。
ない食材から朝作る物を考えてまとめてからリビングに行って理人と並んでソファに座る。
「悪いな?」
「ううん!全然。俺の方こそこんなんなってスミマセン、だから」
「いや、俺的にはかなり嬉しいな」
「…ご飯ついてくるから?」
「そうともいう。……お前、風呂は入った、って言ったな?」
「うん。あと寝るだけ」
「じゃ俺風呂いってくるよ」
「は~い。いってらっしゃい~」
なんかキッチン入ったりしてたからなのだろうか?人んちなのに全然緊張しないのが不思議だ。
理人がお風呂にいっていなくなったので桜はソファにころりと横になった。
立派なソファでふかふかだ。
好きってどんな?
横になって考える事は桜にはイマイチ分かっていない事。
撫子に理人をちょうだいって言われて、勿論桜のものでもなんでもないのに、嫌だ、と断った。
…だって嫌だったから。
なんで撫子にあげなきゃいけないんだ?と思ったんだ。
理人から向けられる誉め言葉が嬉しい。
だって理人みたいに誉めてくれる人はいなかったから。
いや、料理だって誰かに作ったのは理人が始めてだからだけど。
その理人の笑った顔とかが思い出されて、嫌だ、と思わず言ってしまっていた。
好きでもないのに、という言葉にも好きならいいのか、と思わず口に出していた。
好きか嫌いかでいったら好き、だ。
でも撫子の好き、と何が違うんだ?
ソファは桜が小さく身体を丸めればまだ一人座るスペースがあるくらい大きい。
ぐるぐると撫子に言われた言葉と自分の言った言葉と黒田に言われた事が頭の中を巡っていた。
「…なにそんなに悩んでんだ?」
頭をタオルで拭きながら理人が風呂から上がってきた。
結構な時間桜はぐるぐるしてたらしい。
「え~~………人を好きになるってどんな感じかなぁ?」
「ああん?」
理人は目を大きく開いて桜を凝視してそしてふっと笑った。
「恋愛の?」
「う~ん…ん、そう」
「そうだなぁ、抱きたくなったら好き」
「だっ!だ…だ……?」
ぶわっと桜が真っ赤になると理人がまた桜の顔を見てふき出した。
「可愛いなぁ、キスしたいなぁ、とか。あるだろ?」
ある、のか…?
そんなん思った事ないかも…。
じとりと桜は理人を見た。
「……オトナ」
「オトナですよ?」
確かに…。
自分と12も違ったら大人で、それなりに彼女だっていたのだろう。
そりゃそうだ!こんなかっこいいのに今までいないはずはない。
………なんか面白くないけど。
桜なんて振られまくりだったのに!
でも…そうか…。ただいい、だけじゃなくて、キスしたいとか、抱き……、いやいや、と桜は首を横に振った。
キスもした事ないのにそんなの到底早すぎるっ!
けど、理人のたとえには納得した。
「なるほど…さすがオトナ…」
くくっと笑いながら理人がソファの、桜の頭の方の空けてたスペースに腰かけた。
「可愛いなぁ、高校生!俺、高校ん時はそんな可愛くなかったけど」
「そうなの?」
「身体も今とほとんど変わらないし」
「まじで!?身長とかも?」
「中学で一気に伸びたから。高校入った時は178位かな?」
桜はふてくされてさらに小さく身体を丸めた。
信じられない!
桜は高校2年だ。
1年の時と比べて身長が伸びたのは1cmだけ。
まだきっと伸びる!と淡い期待をしてたのにぽっきりと期待を折られてしまった感じだ。
「どうした?」
「い~~~え~~~~!なんでもないです!」
ないモノねだりだって分かってるけどっ!
柔道なんてしてたのに全然筋肉もりもりにはならない身体。
どれもこれもはぁ、と溜息しか出ない。
どこもかしこもコンプレックスだらけ。
そして桜の理想の男像はこの隣にいる人みたいな、なのだ。
ちらっと理人を見た。
黒い髪に広い肩幅。長い足を組んでるのも…。
思わず桜は手を伸ばして理人の組んでいる足の膝をぺん、と叩いた。
「なんだ?」
「なんでもないっ!」
理人がまたぷっと笑いを漏らしてた。
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