桜ははっと目を覚ました。
アレ?自分の部屋じゃない…。
どこだ?と一瞬頭が混乱したけどすぐに理人の家に泊まったんだと思い出した。
「う、ゎっ…っ!」
大きな声が出そうになって思わず口を押さえた。
背中合わせで隣に理人が寝ていた!
…ということは理人のベッド?
昨夜の記憶が途中でなくなってる。
テレビ見ながらきっとソファで寝てしまったのだろう。それで理人が桜をベッドまで連れてきたのか?
別にソファでよかったのに…。
ちょっと恥ずかしいな、と思いつつそっとベッドから抜け出した。
理人の寝室なのだろう。背が高いからか?ベッドもデカイ。
桜はそろそろと理人の寝室を出て行った。
寝室は二階だったらしい。階下に下りて時計を見れば早い時間でほっとする。
そのままキッチンに入って朝食の用意。
あんまり食材がないから朝のおかずって感じじゃないけど、食べなきゃ桜は昼までもたない。
弁当は作って持ってきてくれるのかな?とちょっと心配したけど、なきゃないでパンでも買えばいいか。
コーヒーもセットしていい匂いがしてきた頃理人が起きてきた。
「おはよう」
「オハヨウゴザイマス…」
理人の隣で寝てたってのが何となく照れくさい。
誰かと寝るなんて小学校以来の事だ。
「早いな」
ふわ、とあくびしながら理人がソファに座った。
するとインターホンがなったのに理人と顔を合わせて一緒に玄関に向かう。
案の定、桜の母親で桜の制服とか鞄とかを持ってきてくれたのだ。
「すみません!先生!」
「いいえ。むしろ俺はいて欲しい位なので」
理人が隣に立つ桜の髪をくしゃりと撫でながらにこやかに言った。
…やっぱそう言ってもらえるのが嬉しい。
撫子に出て行って、と言われてしまった今は特に。
「どうせ少しの間だけでしょうから。いいですよ?」
「俺、帰らない!」
「帰らない、じゃないでしょ!」
すぱーん、と母親が桜の頭を軽く叩いた。
「よそ様の迷惑です!」
「いえ、本当に…」
理人がまた笑っている。
「桜くんの気が済むまででいいですよ?」
ホント?と桜が理人を見上げれば理人が頷いていたのに安堵してにっと笑顔が出てしまう。
「…撫子もなんか興奮してて、昨日は部屋から出てこなかったのよね。何で喧嘩してるのか…いい年して!」
困ったように母親が呟いた。
「そのうち治まりますから。兄妹ですからね」
にっこりと理人が笑顔を見せる。
見せるけど…なんか、笑い顔が変な感じ?
「すみません…桜、はい、お弁当。先生の迷惑にならないようにね」
う~~ん…迷惑ってどんなだ?すでに転がり込んでるだけで迷惑な気もするけど、でもご飯作ってやればそれでいいような気もする。
「いえ、全然。俺も一人でいるんで、かえって楽しい位ですから」
「…そうですか…?先生がそれならいいのですけれど…」
楽しいんだろう。だって理人がずっと笑ってるのは本当だ。
そのまま母親は仕事に出かけ、桜は理人と朝ごはんを食べて制服に着替えた。
歯ブラシは歯科医だからかいっぱいあって、一本もらってタオルは借りて身支度を整えた。
「じゃあ、行って来るね」
「あ、桜」
玄関に行こうとしたら呼び止められた。
「家に帰らない?俺んとこ来る?」
「うん。……ダメ?」
「いや、それなら、ほら」
理人から鍵を渡された。
「午後は仕事あるから、それで入ってきていい。帰ったらメール入れとけ。来られそうなら来る」
「え…あ……うん…。その…ありがとうございます。じゃ、借りる、ね」
「ああ。じゃあ行ってらっしゃい」
ぷぷっとまた理人が笑ってた。
さっき母親に向けた顔と違う…。それにほっとした。
でも何がそんなに楽しいのだろう?と玄関で靴を履きながら桜は理人を見上げた。
「俺が誰かを朝見送るなんて初めてだ」
そうなの…?
「いってきます」
へへ…と思わず顔をにやけさせながら桜は理人の家を出た。
手には理人の家の鍵。
今日は何を食べさせようか?なにを作ろうか?
何を作ったらまたおいしい、って言ってもらえるかな…?
撫子と派手な喧嘩して出てけまで言われたのに嬉しいってどうなんだ?
理人のおかげだ。
今日は金曜日で明日は土曜日。
明日プール行くのかな?
昨日は飛び出してきたから今日は家に一回帰って着替えとか持って来ないと!とすっかり桜の意識は理人にだけ向かっていた。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学