でもどうしても黒田から聞いた内容が強烈で頭から離れない。
キスどころか、セ………。
理人も、抱きたいと思ったら、なんて…言ってた。
抱きたいって…。理人が抱きたいって思う人はどんな人…?
撫子が理人を好きだっていってたけど、理人は相手にしないだろうし、きっと理人が好きになる人は綺麗な大人な女の人、なんだろう…。
理人が知らない女の人にキスして、それ以上…。
考えると眉間に皺が寄ってくる。
考えたくない!
いや、別に考えなけりゃいいんだけど。
一日そんな事ばかり頭の中で考えてあっという間に授業が終わってしまった。
「桜、明日、道場来ないか?今度世界選手権に出る選手来るって」
小学校から黒田と一緒に同じ道場で柔道をしてて、桜はやめたけど、黒田は未だに続けていた。
「え?明日はダメ!理人とプール行くから」
「…チッ、なんだ、デートかよ」
「ちげぇしっ!」
デ、デ、デ、デートって!
思わず桜が動揺してしまうと黒田がじっと桜を見ていた。
「お前マジなんじゃねぇの?」
「は?なにが!?」
「だから、その先生に。マジで好き、と違うのか?」
「ちげぇしっ!」
「……ふぅん。ま、いっけど。俺は自分は男相手は絶対考えられないけど、人のは否定しないから。じゃあな!」
黒田がひらひらと手を振って行ってしまった。
なんだ、それ。
一瞬気を取られたけど、桜も鞄を持ってそそくさと帰路に着いた。
理人に借りた鍵を使って理人の家に入る。
「ただいま~…」
人ん家にコレもおかしな気がするけど。
リビングに行って鞄を置くと、キッチンを確認する。
理人はお昼に昨日の残りの肉じゃがとかちゃんと食べたらしい。皿も洗ってあった。
思わず桜の顔は笑ってしまう。
あ、メール入れろって言われてた、と思い出して携帯をポケットから出して帰ったよ、と理人にメールした。
キュインキュインという音が響いてくるのに耳を塞ぎたい気もするけれど、この音がしているうちは多分理人は手がはなせないだろう。
しかし着替えもないから制服のままだ。
やっぱ家に一回帰らないと!
機械の音が長く響いてる。
コーヒー飲む、かな?
桜はコーヒーをセットした。
コーヒーが出来上がる頃、やっと音が止んで、少ししたら理人が診察室に続いているドアから家の方にやってきた。
「桜、おかえり」
「ん、ただいま」
他人にこの挨拶はこそばゆいぞ?
「お?コーヒーのいい香りがする!」
「理人飲む?飲めるなら…」
「ああ、じゃあっちに持ってく。カルテ書きながら飲むよ。あと、今日は俺、診療が6時半位までかかるんだ。買い物一緒行けないけど…」
「いいよっ!別に一人で行けるしっ!………なんか食いたいのある…?」
「ハンバーグ!あ、でも別になんでもいいけど。金やっとく。もしなにか必要な物とかあったら買っていいから。桜がちょこちょこ飯作りにきてくれるなら、だけど?」
「…うん…、いいよ」
やっぱり理人にそう言われれば嬉しい、と思ってしまう。
「あと、俺着替えとか取りに家にも行ってくるね。今日は撫子は委員会あって帰り遅いはずだから会わないし!」
理人がぷっと吹き出す。
「会った方がいいんじゃないのか?でもそうすると桜帰っちゃうかなぁ?」
「帰んない!」
コーヒーを入れてカップを理人に渡した。
「もし何かあれば携帯に入れるか、急ぎだったら直接そっち来ていいから」
コーヒーを受け取り、理人が桜をじっと見ながら優しい口調でそう言ったのに桜はちょっとどきっとしてしまった。
理人はいつも桜の治療の時は普段着に白衣の上だけを着てただけだけど今日は上下白衣だ。
「……うん、分かった……あっ…」
理人はじゃ、と診察室の方に戻ろうとするのに桜が思わず声を上げると理人がなんだ?と振り返った。
「え、と…お仕事、頑張って、ね?」
「…サンキュ」
理人がふっと照れくさそうに、嬉しそうに笑った。
その顔を見て桜もまたかっと顔が熱くなりそうになった。
理人がいなくなった閉まったドアを桜はじっと見てしまう。
なんか…。
桜は思わず自分の顔を押さえた。
なんか…。
自分、が変かもしれない。
黒田に言われた、同棲とか、デートとか、キスとか、色々またキーワードを思い出してしまった。
それに桜の頭の中で考えた理人のキス、…とか。
理人は誰にそういう事をする、…んだろう?
理人の笑った顔を見た時は嬉しかったのに、それを考えたとたんに気分が曇ってくる。
ふるふると桜は首を横に振った。
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