桜は先に自宅に帰って大きなバッグに着替えとか必要な物を適当に詰めてまた理人の家に戻る。
その途中で誰にも会わないといいなぁと思ったのに近所のおばちゃんに見られたて、余計な声をかけられる前にそそくさと頭だけ下げて桜は小走りで理人の家に入っていった。
その後買い物に。
理人がハンバーグ、と言ってたからその材料を多めに買った。…子供みたい、なんてちょっと思ったのは内緒。
それに焼いて冷凍しとけば一人でだってチンして食えるだろうし。
ソースは何いいかな?
デミ?和風?照り焼き…きのことかも…
色々考えてそのどれが理人が気に入るだろう?と悩んでしまう。
その悩んでる自分にはっとした。
そしてまたなんか照れくさくなる。
家で作る時なんか何も考えてないで適当なのに…。
デミソースは別にいつでも使えるし、と桜はそそくさと缶をかごに入れる。
レジのおばちゃんに今日は一人なの?なんて笑われて。
も~~~!
家で作るときは母親か撫子が多めに買って来てたもので、ある物で作ってたから、桜は足りない時だけ買い物に行ってた位で。
考えてみれば理人が持ってるカゴに食材入れて仲良く買い物って…。
撫子とだって母親とだって行かないのに。
なんかなんの違和感もなく理人と一緒に行ってたけど…。
どうにも恥かしいような、照れくさいような気がして、足早に桜は理人の家に戻った。
理人が終わるのが6時半過ぎらしいから出来上がりを7時頃を目安にすればいいかな?
ずっとあの桜の頭の痛くなるような音が引っ切り無しに聞こえてくる。その所為で桜は今までだって歯医者になんか近づきもしなかったのに…。
今だって出来るならこの音は聞きたくはない、…はずなんだけど、それでもここにいるんだよなぁ、と桜は自分で頭を捻った。
この音聞いているだけで治してもらった歯が痛くなりそうな感じがするけど、これを鳴らしてるのは理人だ。
下準備を終えて、そういえばお風呂とか洗ってあるのかな?とつい日常でいつもしてる事で気付いてしまう自分が所帯じみてる、とちょっとガックリきてしまう。
勝手に覗いていいのかな、と思いながらそっとお風呂場を見てみれば綺麗になってる。
ホント、出来ないの料理位なのか?と思わず桜は笑ってしまった。
キッチンに最低限の調味料しかなかったのが、ちょっと増えた。
それも嬉しい、と思ってしまう。
なんなんだろう、一体…。
六時半が過ぎてすでに診察室から桜の嫌いな音は聞こえてこなくなった。
もう少しで理人が戻ってくるかな?
そう思いながらなんとなく落ち着かない気分でハンバーグを焼いていた。
きっといつも理人は診察を終えて、それから買い物に行くんだ。
だから桜とは時間が合う事がなかったんだ、と当たり前の事に今更気付く。
がちゃりとドアが開く音がして桜はすぐに廊下に出ていった。
「お?いい匂いがする」
くんと理人が鼻を鳴らして桜を見た。
「…ハンバーグって言ってたから…。え…と、おかえりなさい?」
自宅と続いているのにこれは変な気がするけど…。
すると理人は案の定またくくっと笑う。
「…ただいま……。着替えてくるよ」
「うん。もう、食う?あとちょっとで出来上がるけど?それともお風呂先?でも入れてないよ?入れとけばよかった?」
「いや、風呂は後ででいい」
「うん。じゃ、ご飯の用意しとく」
なんか…この会話が変な気がするけど…、考えない!
でもなんとなく顔が熱いような気がする。
やっぱ変だ。
理人の顔が見られて、帰ってきた、って感じがして、嬉しいと思うし、ほっとするし、どきどきする。
理人が手を洗ったり、二階に上がっていく音がする。
人ん家なのに。
キッチンを我が物の様に使ってる桜は一体なんだ?
…今は居候だ。
自分で突っ込む。
いや、今はまず何か考えるより用意が先!
ハンバーグを皿にあげて、デミの味を調えて、余った分は取っておいて、とぱたぱたと仕上げの用意をしていく。
ダイニングテーブルに二人分並べて、満足な出来に桜は一人でにんまりした。
またおいしい、って言ってくれるかな?
どうも、それが聞きたくて必要以上に、家で作るより気合が入っている気がする。
でもそりゃそうだ。理人は家族じゃないんだから。
ウチで食う分なら少々焦げたって別に気にしないんだけどな…。
見た目だっていつもだったら食えればいい、と気にしないのに、理人には誉めて欲しくてつい頑張ってしまっている。
理人の家のテーブルに並んでいるコレ見たら撫子はいつもと全然違う!って文句言うに違いない。
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