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熱視線 円舞曲~ワルツ~1

 大丈夫だと言ったのに結局怜は明羅を学校まで乗せてきて、やはり注目されてしまう。
 学校側にもある事情があって、と家から連絡がいっていて怜の家の住所と連絡先も報告してあって問題はなにもないのだが、明羅は何となく後ろめたい気がしてならない。
 だって何もなければ電車で来られるわけで、何かあったから怜が送ってくるわけで。
 お迎えにならこんなに動揺しないんだけど、とちょっと恨めしく思ってしまう。
 「なんだ?いってらっしゃいのチュウ?」
 「なっ!」
 怜がくっくっと笑いを漏らす。
 「もうっ」
 明羅はそそくさと車を降りた。
 「無理するなよ?」
 「…大丈夫だってば」
 仄かに眦が染まってしまう。そんな事言わないで欲しい。
 「じゃ、学校終わったら連絡よこして」
 「うん。分かった」
 怜が車を出してしまえば思わずほっと息をつく。
 相手が怜じゃなければここまで動揺なんてしないのだ。

 もう慣れたのか教室でも誰も問うてはこなくてほっとする。
 身体は思ったよりも本当に大丈夫で、動けなかったのが嘘のようだ。
 それは前は怜が執拗といっていい位だったから、とも言えるのだが。
 …考えちゃダメだ、と明羅は頭を振った。

 
 
 授業が終わって教室を出ても、外にも宗がいなかった。
 怜が来ると思っているのだろう。
 だが校門を出ても怜の車はなかった。
 携帯を取り出しかけてみる。
 『終わったか?』
 「うん」
 『やっぱこっちが終わんないだ。夏休みに宗と会ったデパートあるだろ?あれの斜向かいのカフェにいる。来られるか?』
 「子供じゃないんだから行けます!」
 『いや、そういう意味じゃなくて』
 怜の含み笑いが聞こえた。身体が、という事か。
 「……大丈夫」
 『じゃ、そこまで来て?』
 「分かった。じゃあ」
 『気をつけろよ?』
 「だから!子供じゃないんだから!」
 どんだけ過保護か。
 明羅は複雑な気持ちになる。
 子供に見られているのか、とも思うし、嬉しくもなってしまうのが自分でも馬鹿みたいだと思う。
 親は放任で、だからこそか、明羅はあまり無茶もした事はなかったし、親が有名人とあって自分で自制していた面もあったかもしれない。
 心配を誰かにかけるなんて事はなくて、気をつけて、とかも言われた事はなかったのだ。
 
 身体は酷くはなかったが多少重くは感じる。 
 それでも普通に駅に向かって歩いていた。
 「失礼」
 自分に声をかけられたとは思っていなかった。
 だが明羅の隣にするりと黒塗りの高級車が並んで後部座席の窓が開いていた。
 自分?
 明羅は周りを見渡したが誰もいない。
 下校の生徒の波も明羅の周りは途切れていた。
 「俺…ですか?」
 後部座席の奥にいたのはいくらか年配の人だった。親位の年だろうか?
 知らない人だよな?
 明羅は両親の知り合いを頭に浮かべる。でもここまでカッコいい人はやっぱり知らない。
 「そう。君。乗って」
 「は?何故?」
 普通知らない人の車に乗らないだろう。
 …乗ったのは怜の車だけだ。
 「二階堂 怜と宗の父親だ。…と言ったら?」
 ああ、なるほど!と妙に納得した。
 あの二人のお父さんならかっこいいのも納得だ。
 でもどうして?
 「どこの駅までかな?」
 明羅は自宅とも怜の家の最寄でもない駅を告げた。
 「ちょっと話がしたい」
 そうお父さんが言うと助手席から人が降りてきて後部席のドアを開けられた。
 「どうぞ」
 慇懃に告げられる。
 「間違いなく送ってやるから」
 くつくつとお父さんが笑っている。
 やっぱり怜と宗に似ていた。
 気をつけろ、と宗が言っていた事を思い出したけど、何を気をつければいいのか?
 「どうぞ」
 苛立ったような慇懃な男の声に明羅は怜の父の座る後部座席の隣にそっと身体を滑らせた。
 …本当にいいの、かな…?
 怜に怒られそうな感じもするが…。
 でも見た目が二人に似ているのでどうしたって悪い印象はない。
 どん、とドアを閉められ、明羅は身体を小さくした。
 「そんなに緊張しなくていい」
 声はやっぱり低い。
 怜と宗を足して2で割って年取ったらこんな感じだろうか。
 「ふぅん…うちの息子2人を手玉にとるような子には見えないが」
 手玉!?
 いつ!誰が!?
 違うと明羅は首を振った。怜に関してなら否定出来ないかもしれないが宗に関しては否定できる。でも怜さんだって手玉なんかじゃない。
 「違う?」
 こくこくと頷く。
 口が渇いた。
 何をいわれるのだろうか…?
 「名前は?」
 「桐生 明羅」
 「ほう…いい名前だ」
 知らない、のかな?お母さんの後援会のスポンサーだけど子供の名前までは知らなかったらしい。
 明羅は緊張して身体を強張らせた。
 
 

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