はっと桜は目を覚まして、枕元に置いていた携帯を手に取った。
まだ7時にもなってない。
早く寝たからか目覚めも早かったらしい。
昨夜は理人のベッドにそっと入ってしばらくは自分が変なのに寝られなさそう、とか思ったのに早々に眠ってしまったらしくすっきりと目が覚めた。
そして首を動かして隣を見てみると理人が眠っていた。
切れ長の目が瞑っている。
うわぁ、と何故かまた動揺して桜は焦りながらもそっと理人のベッドから起き出した。
黒田に好きなんじゃねえの?と言われた言葉が桜の頭の中に響いてきた。
好き、なのか…?
だって男なのに?
そういや男同士でも……って!
朝っぱらから何考えてんだ?
桜は考えない!と自分に言い聞かせてキッチンに下りてきた。
ぱたぱたと朝ご飯の用意をする。
桜は休みだけど、理人は午前中は診療があるんだ。
余計な事は考えないで朝ごはん、朝ごはん、とコーヒーをセットしたり、キャベツを千切りしたりと余計な事考えないようにと下準備に集中していると、少ししてから理人が起きてきた。
「お前早いなぁ…。まぁ早く寝たんだから当然か」
「ん!そ、そう」
理人が欠伸しながら髪がちょっと寝癖ついてるのが、可愛い、とかって思うってどうなんだよ…。
そんな事桜が思ってるなんて知らないだろう理人はキッチンに入ってくると反対に桜を見てぷっと笑った。
「お前、寝癖」
そう言って桜の髪をぐいっと撫でてきたのに心臓がバクンと鳴った。
理人が寝癖を直すように桜の髪を撫で付けるのに桜は思わずぎゅっと目を瞑った。
「お、俺は今日休みだし!後で直すからいいのっ!理人こそ!寝癖!」
「マジか?」
「マジ!直してきてっ!その間に朝飯用意しとくからっ!」
ぐいぐいと桜は理人の背中を押して理人をキッチンから出してやり、洗面所に姿を消した理人に安心してはふっと息をついた。
…びっくりした!
かっ、と体温が何度も上がった気がした。
別に何でもない事なのに!
「用意!用意!」
自分に言い聞かせて考えないようにする。
多分、もう、分かってる。
今まで誰にもこんなドキドキなんてした事なかった。
これが、好き、なのかな…?
今は考えない!と桜は頭を横に振った。
朝ごはんを一緒に食べて、洗濯とかしようとする理人にしとくから!と桜がぱたぱたと動いた。
「いや、桜…別にそこまでしなくていいぞ?美味いご飯が出てくるだけでもう天国のようだ」
「大袈裟だよ!」
「いや、マジで!ホントに嫁に欲しい位だ」
これは理人がふざけてるだけ!
桜は思わず喜びたくなる自分の気持ちを抑えた。
「男だから嫁は無理っ」
「だよなぁ~」
当然の様にそう言われれば微妙に凹んでしまう。
ああっ!もうっ!
なんだよコレ!
自分で自分を持て余してしまう。
「今日は予約が11時半までだから12時過ぎかな、終わるの」
「うん。分かった。いってらっしゃい」
廊下一つだけど桜がそう言うと理人はちょっと眉を寄せて変な顔をした。
「どうかした?」
「…いや、……行ってくる。あと午後プールな?」
「うん!」
廊下からバイバイと理人に手を振って送り出し、理人の姿が家になくなったのに桜は大きく溜息を吐き出した。
……なんか、疲れる…。
理人にじゃなくて、自分が落ち着かなくて、だ。
桜は携帯を取り出して電話をかけた。
「もしもしっ!なぁ、俺、変なんだけどっ!」
『ああん?何が!?』
電話は勿論黒田だ。
「なんか、なんか…とにかく、変だ!」
『…………あのな、俺、今道場に向かってるとこなんだけど?』
「まだ着いてねぇならいいだろ!?な、コレって好き、なのか?」
『ああ?知らねぇよそんなの』
「だって!お前が言ったんじゃないか!好きなんじゃねぇの、って!」
『そう思うんならそうなんじゃねぇの?……少なくとも今までのお前が告白してきた相手と態度は全然ちげぇから』
「えっ!?……そんな、違う…?」
『自覚なしかよ?お前、一人でにやけたり、顔赤くしたり慌てたり、見てて面白いけど?』
……面白いって…。
それは置いといて。
「……やっぱ、そういう事だと思う?」
『…思う?って、てめぇの事だろが。俺が知るか!』
「……だって、男だよ?俺、されるの?」
『知るか!ボケ。っつうか、されるされないの前に相手がお前をどう思ってるかだろ?お前が好きだって相手がそうじゃなきゃそうはならねぇだろうが』
「あ、そっか」
はぁ、と電話口で黒田が溜息を吐き出していた。
『お前まだ、その先生ん家?』
「そ」
『あっそ。せいぜい頑張れば?お前の顔だったら血迷う事もありかもな。道場着いたから、じゃあな』
そう言ってぶちっと電話は切られた。
……やっぱ、そうなのかな?
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学