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桜誘う桜守 28

 理人はコースを泳ぎながらも待っている桜が心配でどうにも泳ぎに身が入らない。
 それでもタオルを頭から被せたからか桜に近づく人影もなく、ほっとして1往復だけ泳いで桜の所に戻った。
 大きめのバスタオルに包まるようにして桜がタオルの下から理人を見上げた。
 「もっといいよ?行ってきて」
 「いや、いいよ。桜、行こう」
 理人が桜を促すように立たせ背中を押した。細い華奢な身体だ。
 「……ホントに?」
 足らないんじゃない?と言わんばかりの桜に大丈夫だ、とそのままシャワー室で身体を流して着替えを終えると桜も出てきた。

 桜が服を着て出てきたのに安堵した。
 いや、男なんだからそれはおかしいんだろうけど…、でも桜のはマズイ気がする。
 「小腹減ったな。コンビニ寄って何か買って食うか?」
 「うん」
 女の子じゃないのに、どうも桜の裸は目に毒な感じだ。
 だからあの男も桜を男の子と分かった上でも声をかけてきたんだ。
 思い出せばふつふつと怒りが湧いてくる。
 まったくもって桜をそんな対象に見るなんて…。
 ちらと隣に立つ桜を見ると微妙に髪がまだ濡れている。

 「桜、ちょっと待て」
 「ん?」
 桜がきょとんと理人を見上げるのに鞄から使ってないフェイスタオルを取り出して桜の髪をわしゃわしゃと拭いてやった。
 「わっ!」
 「…ちゃんと拭かないと!」
 「大丈夫だよっ!」
 「いいから」
 じゃないとまた変な男が寄ってきそうだ!
 「も~…」
 タオルを取ると桜が髪を撫でていた。

 荷物を持って車に乗り込み、ちょっと走った所のコンビニに入った。
 「桜!?」
 「あ!?黒田?お前、今帰り?随分かかったな?」
 コンビニに入るとすぐにレジで並んでいたヤローに桜が声をかけられ、そして親しそうに話し始めた。
 友達、か…?
 「理人、コレ、俺と腐れ縁で小学校からずっと一緒の黒田」
 「佐々木 理人です」
 「歯医者の先生でしょ?桜から聞いてた。黒田 政史です」

 …ガタイがいいな。桜とは全然違う…。
 いや、コレが普通で、桜が普通じゃないんだ。
 ……友達。いや、そりゃ桜だって普通に高校生なんだから友達だっているだろうけど…。
 なんとなくこのガタイがいいのが友達というのが酌に障る気がする。
 「?」
 なんだ?と自分で頭を捻った。
 「桜、ちょっと」
 黒田と名乗った桜の同級生が理人の方を見ながら桜の肩を組んだ。
 こそりと桜に何か耳打ちしている。
 理人はその二人から視線を外し、雑誌コーナーの前に立って本を手に取った。

 「理人、ごめん」
 ちょっとすると桜が理人の隣にちょこんと立った。
 「ん?なんだ?もう終わったのか?」
 「うん。なんも用事なんてねぇもん。ね、何食う?」
 ちらとコンビニから出て行こうとする友達の方を見ると黒田と名乗ったヤツが理人に軽く頭を下げ、そしてコンビニから出て行った。
 「桜は?」 
 「チキン!」
 にっと笑って桜が可愛く言うのに理人は思わずぷっと笑ってしまう。
 「買ってやるよ」
 「え!いいよ!」
 「いいから。これ位」
 桜の頭をぽんと叩いてレジに向かった。

 「あと、ガソリン入れて、買い物な」
 「んっ!理人何食べたい?」
 「ん~~~…何いいかなぁ…。桜の作るのマジでうまいから…」
 チラと助手席に座る桜を見るとふにゃっと顔を緩めている。
 桜は誉められるのが嬉しいらしいのはすぐに気付いたから、事あるごとに誉めてやる。
 …いや、実際まじで桜の料理は美味いけど。

 スタンドに寄ってカードを出すときに免許証がちらっと見えたのか桜が見せてと言うので渡すとしげしげとそれを眺めていた。
 「住所、ちがうよ?」
 「あ?ああ、まだ変えてないな。次ん時は変えるだろ」
 「……ずっとこっちいる?」
 「そのつもりだけど。実家の方は妹が継ぐだろ」
 「え!?そうなのっ?」
 「ああ」
 「…ふぅん」

 桜がまた嬉しそうにしている。
 何が嬉しいんだ?
 「ああ、お前の治療はいつでも休みの時に特別にしてやるよ。他の患者さんには見せられない姿だからな」
 「うっ……!…ハイ、お願いします」
 その桜の返事にまた笑ってしまった。
 桜が免許証を返してきたのを受け取り、しまうと丁度ガソリンも入れ終わった。

 そうだな、住所をこっちにうつすか…。
 祖父さんが亡くなってとりあえず、という事ですでに歯科医になっていた理人が来たけれど、このままこっちを継いでいいかな、と思える位になっていた。
 唯一食生活だけがどうしてもネックだったが、ここ最近、桜が来てからはそれも解消された。
 とは言ってもいつまでも桜がきてくれるわけではないだろうが…。
 
 
 
 
  

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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