やっぱ、好き、かも…。
だってもっとしたい。
どうしたらいいんだ?
ただ合わせただけの唇。
ただのチューじゃなくて…。
桜が舌を出そうとしたら理人がぱっと離れた。
「こら、調子乗るな」
「…理人…」
じっと理人を見たら理人は普通の顔に見える。桜はいっぱいいっぱいなのに!
「…で?」
理人が促してきた。
「え?」
「キショくねぇの?」
「ないっ……。俺は…。…あ、でも理人、は…?やっぱ、やだ…?」
「う~~~ん…嫌ではないけど…」
そしてやっぱり困った表情。
桜はキスしたい<好き>だけど、理人は別にキスしたいわけじゃないんだ。
…当たり前だろうけど。
「……キスしたい、って思わなくても、理人は出来る、の…?」
「普通の男相手なら無理だけど。それこそキショイ。桜はなぁ…可愛いから」
「可愛かったらキスできんの?」
理人がう~~ん…と唸って頭を抱えていた。
「……困ったな。あ、もうしねぇぞ?」
「えっ!」
「好きって言うのも今だけって言ったな?」
「え…!?……うん……」
「その方がいいだろ。だいたい問題ありすぎだろ?年は違うし、お前も俺も男。まぁ、思春期に血迷う事もあるみたいだし?俺はなかったけど。お前も少しすりゃ落ち着くだろ」
……そう、かな…?
だって朝よりも今の方がずっと好きが大きくなってるのに?
「まだ、今、続いてていい…?」
「うん?」
理人の服を掴んでいる胸のあたりに桜は頭をつけた。
このまま理人が桜の背中に回してくれれば抱きしめてもらえるのに。
桜は顔を理人の胸に埋めた。
…好き。
「今だけ…こうして…だめ…?」
理人はいいも悪いも言わないで桜のしたいようにさせてくれていた。
テレビがなんかしゃべっていたけど全然桜の耳に聞こえない。
理人は困る、と言った。
困らせたいんじゃないんだ。
桜が勝手に好きでいるのはいい、よね?
キス、もっとしたかったな…。
やっぱり桜はキスしたい<好き>だ。
でも別に理人はキスしたいわけじゃないんだ。
嫌でもなかったから桜のしたいようにさせてくれただけ。
きっと理人は桜と違って初めてのキスってわけじゃないんだろうし…。
だよね…。
12、13も歳が違ったら大人だから…。
桜は子供で理人に相手にもされない位だから、だからきっとキスだってふざけた延長位でさせてくれた、のかな?
とりあえず桜の顔はヤローとはいえないし、皆様に可愛いと褒められる顔だ。これがきっと黒田みたいなのだったら理人はさせてもくれなかっただろうとは思う。
そう思えば、キスできてラッキー?
でも…。
どうしたらいいのかな?
こうしてても理人の事ばっか考えてるのに。
理人は桜が縋っても振り払おうともしないで好きにさせてくれている。
きっと今だって困ってるんだ。
……あとちょっとだけ。
桜はそっと理人から離れ、そして手も離した。
すると桜の頭の上で理人の安堵の溜息が聞こえた。
やっぱり困ってたんだ…。
「……もう、言わない」
「…ああ」
理人がよしよしと桜の頭を撫でてくれる。
「すぐ忘れるさ」
無理だと思うけど…。でも理人が困るなら、と桜は小さく頷いた。
自分で自分が分かった。
コレが<好き>だ。
どきどきしたりちょっと誉められる事が嬉しかったり、…それに、キスが嬉しい。
黒田の言っていた事が初めて理解できた。
今まで自分が思い立ったらすぐにと告ってきた相手と、自分に告ってきたヤローを思い出した。
そのどっちにも申し訳ない、と思う。
簡単に好きだ、付き合ってと言ってた桜はバカだ。
そして今の自分と同じ思いをして告ってきたヤツもいたんだろうか?
それを桜は一蹴してきた。
勿論今だって頷く事は無理だけど、断り方ってのがあるだろう。
もし理人が桜が自分でしてきたように馬鹿にした言い方で断ってきたら自分はどう思う?
それを考えたら今までの自分がいかにバカだったか。
ふざけてたヤツもいただろうけど、今の桜のように真面目なヤツもいたかもしれないんだ。
今更謝って歩く事だって出来ないし。
ごめんなさい、と桜は心の中で謝った。
そして理人を見て桜はにっと笑顔を作った。
大丈夫。
もう言わない。
困らせない。
だって嫌われる位なら、避けられる位なら、今のままがいい。
このままだったら理人はこのまま変わらないでいてくれるんだよね?
だったら桜が自分の気持ちを隠せばいいだけだ。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学