…焦った。
かなり。
でも……。
桜がキスをせまってきて思わず受けてしまった。
やめさせればよかったのに…。
そしてただ重ねるだけの拙いキスと、華奢な身体に桜を抱きしめたい衝動が出たのに理人は心の中でかなり慌てた。
自分の胸に顔をそっと埋める華奢な桜の肩に手を伸ばしかけた。
…ぐっと止めたけれど。
俯けていた顔を上げると桜がにっと笑ったのに安堵した。
ほら、きっと違う。
桜はちょっと勘違いしているだけだ。
自分もいい年して、もう30にも近いのに今更男の子が可愛いなんて思うのに驚いたけど、桜が可愛いのはきっと誰が見たってそう思うはずだからまぁ、いいだろう、と自分に言い聞かせる。
ただ、可愛いだけだ。
ちょっと幼い所があって、<好き>が分かんない、とか、歯医者が怖いとか。そこも可愛いに拍車をかけてるんだ。
妹と喧嘩して出てきた、とかも…。
「……そういや撫子ちゃんと喧嘩の原因って?」
「え?ああ。うん。撫子に理人ちょうだいって言われて嫌だ、って言ったから」
「は?」
意味がわかんねぇぞ?
「撫子が理人好きだって。俺が理人と仲良くなったのとかが気に食わなかったみたいだ。きっとそれだけじゃないけど」
理人は頭を抱えた。
「…撫子ちゃんって中学生…だよな?」
「そう。俺と3つ違うから中2」
こいつら兄妹はどうなってるんだ?
それより、なんでよりによって俺なんだ?
それこそ中2なんて桜よりもっとひどい。
………今さらりと桜は言ったけど、ちょうだいって言われて嫌だ、と言ってきた?桜が?
……いや、聞かなかった事にしよう。
「寝るか?」
なんか妙に疲れた気がする。
「うん」
ふわぁ、と桜が欠伸を漏らした。
無邪気だな、とちょっと呆れてしまう。
一緒のベッドに入れてやってるのに何とも思わないのだろうか?
………やっぱり勘違いだろう。
桜と一緒に二階に上がってベッドに入った。
ダブルベッドで、さらに桜は細いしまぁ、いいのだが、なんで男をベッドに入れてしまったのか。
最初の日にソファで身体を小さくして眠っているのが迷子のようで可哀相に見えたんだ。
小さい子と同じ感覚だから、だ。
はぁ、と今日、何度目か分からない溜息を吐き出す。
「…電気消すぞ?」
「…うん」
隣に入った桜がもぞもぞと動いてる。
「理人…」
「うん?」
「あ、あの…さ……手…」
桜が消えそうな声で小さく言ってそっと手をのばしてきたのに桜の手を握ってやるとほっと安堵したような桜の雰囲気が伝わってきた。
人ん家だ。
心細いはいくらかあるだろう。
妹に出てけって言われたのだって確かにちょっとは凹むな…。
「手、おっきぃ…」
桜の手は小さい。
身体も小さいしそうだろうけど。
「これでいいんだろ?寝ろ」
「……うん。ありがと。…おやすみなさい」
嬉しそうな声。
電気を消したから表情は見えないけれど、きっとちょっと顔を赤くして笑顔になっているんだろう。
「…オヤスミ」
可愛いんだ。
やる事なすこと全部。
可愛いからマズイ。
おまけに料理は理人の好みの味で本当にうまい。
男の子じゃなかったら…。
いやいや、そうじゃないだろう。
思わず自分で突っ込んでしまう。
すぐに桜からすぅすぅと規則正しい寝息が聞こえ出す。
寝つきが素晴らしくいいらしいのに桜が眠った後も思わず笑ってしまう。
桜が来てからずっと笑っている気がする。
自分一人だけじゃ家じゃ話す相手もおらず、当然笑う事もなかったのに。
…だから困るんだ。
いや、困るって思ってる事がどうも……自分もマズイ方にいっている気がしてならない。
……まだ桜は高校生。好きもワカンネェって言ってる位だ。
理人はそう自分に言い聞かせて目を閉じた。
小さい子供のようにして繋いでる手が温かかった。
目が覚めたら桜の顔が目の前にあって理人は一瞬驚いた。
昨日も一昨日も桜は先に目覚めてて、理人が目を覚ました時すでにベッドに姿がなかったので桜がいた事が夢かと思ったのだが、今日は目の前にいた。
口を半開きにして可愛い顔で眠っている。
……安心しているのだろうか?
理人は手を伸ばしてそっと桜の頬を撫でた。
男子高校生とは思えないような白い肌にすべすべの肌だ。
自分が高校の時とは比べ物にならない。
いや、桜だからか。コンビニで会った桜の同級生は普通の高校生男子だったから。
「桜…?」
名前を呼びながら頬っぺたをツンと突くとううん、と桜が唸った。
その唇に思わず目を惹かれる。
昨日、この桜色の唇が…。
いやいや…。
「桜。まだ起きない?」
鼻を摘んでやると苦しそうにして桜が目を開けた。
「ひでぇ~」
「おはよう」
くくっと理人は笑って挨拶した。
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