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2012.09.06(木)
「息子達とはどういう関係?」
「どういう…?宗、くんとは同級生なだけ。怜さん、は…」
何と言ったらいいのだろうか?
恋人、はまずかろう。
「ええと…音楽のほうでちょっと」
「音楽?……君もピアノを?」
「…いえ」
興味をひかれたように怜の父に問われたが明羅が否定すると興味を失ったようだった。
「あれは出来損ないだが?」
「な、何言うんですかっ!そんなはずあるかっ!」
明羅が唯一欲しいと思った音なのに!
欲しくて仕方ない人なのに!
「…ふぅん?怜とは、だけ、ではないらしい」
勘が鋭い。
やっぱり似てる。
「ピアニスト?年に1回だけの?」
宗と同じ事を言った。
だからちゃんとコンサートもしてCDもって!
明羅はイライラした。
「君は桐生 佐和子と同じ苗字だな?彼女のコンサートに行った事はあるか?」
こくりと明羅は頷いた。
「世界で活躍、それが一流のピアニストだ」
お母さんは一流のピアニストだ。それは分かる。でも明羅の魂に震えは来ないのだ。
「…お父さんは怜さんのコンサート行った事あるんですか?」
「ないな」
くすっと明羅は怜の父を見て婉然と笑った。
「それで怜さんのピアノの何が分かるんです?宗も同じ事言ってたけど、怜さんのステージ見てない人は何も言う資格ありませんけど?」
「何?」
「近々もう一度コンサートする予定なので見てください」
駅はもう近くまで来ていた。
「ここでいいです」
車を停めてもらって明羅は車を降りた。
「ありがとうございました。チケット送るように怜さんに言っておきます。絶対に見てください」
悔しい。
怜のピアノを知らないなんて。
それなのに、お父さんなのにあんな言い方するなんて。
明羅はきっ、と怜の父親を睨み、それでも頭を下げた。
ここから怜の待つカフェまで歩いて5分位。
怜の父の乗る車が反対方向に走っていったのにほっとした。
「怜さんっ」
「お……?ど、どうした…?」
怜は生方と一緒にいて、カフェでも目立っていたのですぐに分かった。
その怜の顔を見て思わず悔しくて涙が溢れた。
「明羅?」
怜がびっくりして立ち上がったのに明羅は怜のTシャツを掴んで頭を怜の胸につけた。周りなど気にしない!
「悔しいっ!怜さんのばかっ!」
「は?……もしもし?明羅くん?どうした??」
「どうもしないっ!」
怜の服を離して椅子に座った。
「どうしたの?」
生方も苦笑して聞いてくる。
「どうもしない…………何コレ?」
テーブルに広げてあったのは怜さんの燕尾服の写真だった。
ぐいとちょっと出た涙を拭ってそれに魅入る。
ピアノに向かっている時の写真で、髪を上げててかっこいい。
ちらと隣を見た。
髭はないけど。……やっぱり別人みたい。
「…なんだ?その目は?」
「んんん~~~?」
明羅は首を振った。生方はくっくっと笑っている。
「CDのジャケット、どれがいいと思う?怜は自分が写ってないヤツって言うけど」
明羅は写真を見ていく。
「……コレ」
明羅の選んだ写真に怜と生方が顔を覗かせた。
「…また微妙なとこ選ぶなぁ」
生方がぼやいた。
「え?なんで?顔ちらっとしか見えないけどかっこいいし、この手の振りもかっこいいでしょ?」
手を振り上げ顔が半分隠れているような写真だった。
「俺的にもそれなら妥協してもいい。顔が全面出てるのは却下だ」
「…かっこいい、ねぇ」
生方は明羅をくすっと笑って見た。
「チラリズムと同じかな?」
「その表現はいただけないぞ」
怜は厭きれたように生方を見た。
「ね、ね、生方さん」
「ん?何?」
「この怜さんの写真頂戴?」
「別に元があるからいいけど…」
「ほんと?」
「……お前、横に本人がいるだろうが」
「いるけど。……欲しい」
その時怜の携帯が鳴った。
「…ちょっと」
怜は画面を見て相手を確かめ、そう言って席を外した。
「もしもし?…いや、いるが…?」
出たらしい声が聞こえたが後は外に出て行った。
「ね、明羅くん怜のとこにいるって?」
「うん。そう……怜さん、迷惑、って言ってない?」
「言ってない。可愛い、ばっかだ」
それは恥かしすぎる。
「曲は…?進んできてるけど大丈夫?」
「うん。多分。でも…本当に俺でいいのかな?」
「怜が言い張ってるからいいと思うけど。俺は音楽知らないし」
生方が肩を竦めた。
「明羅くんは高校生だし顔出さないようにって怜が言ってたけど」
「うん。でも名前はきっと知れちゃう、ね?」
「…だろうなぁ。音楽知らない俺でも桐生佐和子と桐生博って名前知ってるくらいだし」
それは仕方ないよと言いながら明羅は怜の写真をバッグにいそいそと片付けた。