鼻をつままれて起こされるって…。
ちょっと、…いや、かなりがっくりだ。
きっとおはようのちゅーなんてありえない…。
今日の朝ごはんはパン。
昨日食パン買ってきたから。
卵はスクランブルにして。
冷蔵庫も調味料も随分と揃ってきてぱっと作るのが大分楽になった。
コーヒーもセット。
歯医者じゃない時は理人はTシャツにジーンズだ。
髪も長めの前髪をそのままにしている。
歯医者の時は前髪を白い帽子の中に入れちゃうけど、額がでてるのもそれはそれでかっけぇとは思ってしまう。
かっちりしてる仕事の時もいいけど、寝起きの理人のそんなルーズなちょっと寝癖のついたとこが可愛いとか……。
大人の男でも可愛いがありなんだ、と理人を見て思った。
自分が言われる可愛いと種類は違うんだろうけど…。
「理人~、出来たよぉ」
「おう」
リビングでニュースを見ていた理人に声をかけた。
なんか、パートのおばちゃんじゃないけど、新婚家庭ってこんな感じ?って気がして桜は気分だけは満足だ。
「……なんで桜、桜色のエプロンしないんだ?」
「え!?…制服じゃねぇもん!」
「あれ似合ってて可愛いのに」
「……嬉しくない。…いいから!はい、コーヒー」
「ありがとう。…スクランブルがふわとろだ…」
理人の目が輝くのに嬉しくなる。
「ベーコンはカリカリだし…」
理人の好みに合ってたらしいのに桜はやっぱり嬉しくなってしまう。
…でもさすがにいつまでも理人の所にいるわけにいかないだろう。
「俺……今日、帰る、ね…。母親にもいい加減に理人に迷惑だから帰って来いって言われてるし」
「迷惑ではないけど。…うん。その方いいだろ。撫子ちゃんだって気にしてるはずだ」
「…それはどうかな。でも理人の晩御飯の分とか、明日の朝の分とか、は用意してくからっ」
「別にいいんだぞ?」
「……俺がしたい、だけだから」
してあげたいんだ。理人に喜んで欲しいから。
「んじゃ、今日は映画でも見に行くか?なんかいいのあったかな…?」
「あ!洋画の!ほら!話題作ってCMしてたの!見たいっ」
「じゃ、それにするか」
理人がくすっと笑った。
そして桜も思わず顔が緩んでしまう。
だってデートみたいじゃん!
桜が後片付けをしている間に理人がパソコンで上映時間とか調べて、そしてまた車でおでかけ。
車の助手席に乗せてもらえるのも嬉しい。
どれもこれも嬉しい、なんだ。
帰るのがちょっと寂しい気もするけど、でも会えなくなるわけじゃない。
理人に昨日あんなコトしたのに理人は全然変わらない。
意識してもらえてないのは悲しい気がするけど、でも避けられてはいないんだからいいのか…。
複雑だ。
でもやっぱり一緒にいられるのが嬉しいんだからいいんだ。
……このままで。
理人は昨日の桜の告白もキスもまるでなかった事のように普通。
振られた、って事なんだろうけれど…。
理人の車に乗ってから桜はちょっと落ち込んでしまう。
…そっか、振られたんだ…。
でも、それでも一緒にいられるなら、と思う位やっぱり理人は桜の中で特別だと思う。
黒田はイケるかも、と言ってたけど、イケなかった。
諦める、って出来るのかな…?
だってこうして一緒にいたらきっともっと好きになる事はあっても嫌になる事なんてなさそうだ。
初めての<好き>と初めてのちゃんとした告白と、キスと振られたという事に桜の頭の中がくるくると回っている気がする。
「桜?着いたぞ?」
「え?あ、うんっ」
いつの間にか駐車場に車が停まってたので慌てて桜は降りた。
映画館はカップルや家族連れが多い。
その中で理人と自分はいったいどんな関係に見られるのだろう?
兄弟には見えない。友達だって違う。せいぜい親戚とか…?
チケットを買うのに理人と一緒に列に並んだ。
「混んでるね?」
人がいっぱいでざわついているのに、つんと理人のTシャツの裾を引っ張ると理人が桜に顔を近づけてきたので耳打ちした。
「まぁ日曜だしな。こんなもんだろ」
桜は学生証を出して、自分で払おうとしたチケット代を理人はいいから、と払わせてくれない。
それに中に入ってからも飲み物にポップコーンに、と理人が買ってきてくれる。
なんかずっと金使わせているみたいで桜は落ち着かなくなる。
だって居候中、食事は作ってあげてはいるけどスーパーでの買い物には桜の食べる分も入ってるし。
やっぱ迷惑だろ…。
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