映画はさすがに話題作とCMでも言ってた位で面白かったけれど、全部が理人が出してくれるのが嫌だ。
「昼もう過ぎてるな。どこかでラーメンでも食うか」
食いたい!けど…。
「どうした?」
「…だって…理人ばっか払うから…」
桜がむっと口を尖らせた。
「ああ?別にいいだろ。お前はまだ高校生だし。それにお前には面倒みてもらってるし?」
だってそんなの大した事ないのに…。
桜の不満顔を分かったらしい理人はふっと笑った。
「お前、家政婦とかって頼むといくらかかるか知ってる?マジ高いぞ?俺もさすがに弁当飽きて探してみた事あったけど。お前は家政婦じゃないけど、でもそれに比べたらこん位全然だ。バイト料だと思っていいから」
「……そんなのヤダ」
バイトじゃない!桜がしたいからしてるだけなのに…。
そんな仕事みたいに言われるのは嫌だ。
思わず桜は理人を下から見上げるように睨んだ。
「分かってる。別にお前をバイトだとか思ったわけじゃねぇよ?桜の好意だから。それに俺も少しは返したいなぁと思ってるだけだ。ただお前にしてもらってるだけじゃなぁ~。だからいいんだよ」
理人が手を伸ばし、大きな手でくしゃっと桜の髪をかきあげた。
「マジで感謝だから」
「…そう…?」
「ああ。美味いから!ホント俺好みの味で!」
理人にそんな事を言われたら桜の顔は緩んでしまう。
仕事みたいに言われれば面白くなくて、ただ誉められれば嬉しいんだから。
自分でも単純だなぁ、と思ってしまう。
ラーメンはどこがいいか?なんてあれこれ言いながら歩いていると桜は聞き慣れた声が聞こえた気がした。
「なんだ?」
歩いていた先に人だかりが出来ていたのに理人が怪訝な顔をする。
……まさか!
「桜!?」
桜はだっと走ってその人だかりをかき分けて入っていった。走り出した桜の後ろから焦った理人の声が聞こえてきたけど、今はそっちよりも…!
「撫子!」
「桜ちゃん!!」
人だかりが遠巻きになっていた先で撫子が男に腕を掴まれていた。
ちょっと離れた所には撫子の友達だろう、女の子二人が震えて立っていた。
「手を離せっ!」
桜が男に向かって声を放った。
「なに?この子。さらに可愛いくね?」
桜は撫子に近づいて撫子を掴んでいた男の手を無言で払った。
撫子が桜の後ろに隠れ、桜が庇うように前に立つと男をぎっと睨んだ。
男は桜よりもずっと大きい。理人まではないけど、黒田位はあるだろう。
そんな男が二人いた。
「何?姉妹?チョー可愛いじゃん!そっち二人、俺ら二人ちょうどいいな?遊んでよ」
男がにやにや笑いながら桜に手を伸ばしてきたのに、桜はその手を掴まえて足を男の股の間に踏み入れると身体を捻って倒した。
「うわ、何すんだ!?」
「だっせぇ」
もう一人が桜に飛び掛ってこようとしたのに桜は撫子を背に庇いながらもそれをかわして、背に手刀を入れると男が倒れる。
おおう!と人だかりから拍手が起きるが、男達はすぐに立ち上がった。
顔が真っ赤になって怒っているのが分かる。
「撫子、友達の方に行け」
「う、うん…」
桜は目線を男達から離さないまま撫子に言い、言う事を聞いて離れた撫子にほっとした。
「桜!警察呼んだぞ?」
理人の声だ。
「け、警察!?」
それを聞いて男達が人波の中に紛れて慌て逃げていったのを確認して桜は理人の方に視線を向けた。
理人が桜の隣に立って桜の身体を点検するようにぽんぽんと触っていく。
「え、と…ありがとうございます?」
「…お前な…いきなり焦ったぞ!…お前はなんともないな?」
「ないよ。撫子!何もされてないか?」
「…大丈夫。…桜ちゃん~~~」
うわぁんと撫子がまた桜に抱きついてきて泣き始めた。
「何してんだ?テメー?中坊のくせに遊んでるからわりぃんだ!」
「遊んだっていいでしょう!」
「……桜、兄妹喧嘩はやめたら?」
まだ人の輪が囲んで見てたのに桜はうわぁ、と恥かしくなる。
思わず撫子を放り出して理人の後ろに隠れた。
理人はぷっと笑っている。
「桜、撫子ちゃんたち送っていくか?」
「ええ、と…うん。…いい?」
「勿論。…腹減ってるけどな」
「スミマセン」
桜が小さくなりながら理人にお願いする。
「え?…でも、警察来るんでしょ?」
撫子がまだ青い顔をしながら言った。
「そんなの嘘に決まってんだろ」
桜と理人が声を合わせ、そして顔を合わせるとふき出した。
「お前場慣れしてんなぁ」
「そりゃあね」
理人が桜の髪をぐしゃっと撫でたのに桜も笑った。
「撫子ちゃん、お友達も、送っていってやるからついといで」
理人が笑みを浮べながら言った。
あれ…?
桜はその顔が自分の見てる理人のいつもの笑い顔と違うのに気付く。
なんかよそよそしい感じだ。
桜といる時は感じた事のない感じ。
「?」
思わずじっと理人の顔を横から見上げるようにしてじっと見てしまった。
テーマ : 自作BL小説
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