「俺、告っちゃった」
「はぁっ!?」
学校に行って、後ろの席の黒田に顔を近づけながら軽く言ったら黒田は呆れたように桜を見た。
「…で?若先生はなんだって?」
「うん…勘違いじゃないか、って……」
「へぇ…。で、お前はどうなの?」
「何が?理人の事?…好きだよ」
「あ、やっぱ違うんだ?今までのお前だったら振られた時点でハイ次、ってなってたもんな」
「う………はい…」
そう、だ。理人に何言われたって、振られたって桜の好きはまだ全然変わっていない。
「いや、振られたわけでもねぇのか?まだ先生ん家いんのか?」
「ううん。昨日帰った。でも…」
合鍵を黒田に見せて桜は顔を緩めた。
「…なに?鍵もらったの???」
「貰ったと違うけど…。好きなときに来ていいからって!」
桜はこれを自慢したくていたのだ。
「う~~~ん???好きだ、って言ったんだよな?」
「うん。言った!キスもしたぞ?」
「はぁ!?なに?どういう事?」
「ええと…俺から、こう、理人の胸掴んで。さらにべろチューしようとしたら調子乗るな、って離されたけど」
黒田がさらに呆れた顔をしてた。
「…人の、特にダチの情事の事なんて聞きたかねぇけど。……それって先生も桜の事は嫌いじゃないって事だよな?」
「…情事って……。…まぁ、うん。嫌じゃないって言ってた」
「………お前先生の事諦めんの?」
「ううん。それも考えたけど…だって好きだもん」
「……ならどうにかなんじゃね?先生ちゃんと桜を男だって分かってるんだろ?」
「分かってるよ」
「だよな。………歯止めきかせてんじゃねぇの?一応はお前男だし、年離れてるし」
「え?」
「だってあの先生…あれじゃ今までだって女と付き会った事ない、なんて事ねぇだろ?それに桜が迫ったところでかわすのなんて楽に出来るのにしなかったんだろ?さらにコンビニで会った時、俺、先生に誰コイツ、的な目で睨まれたぞ?」
「え?え?…まじ、で?」
「ああ。良識ある大人なんじゃねぇのか?桜につられてほいほい食うようなヤツじゃないみたいだな。…いいけど、年いくつちげぇの?」
「ええと、今29?9月誕生日だから今年30?学年13…?」
「……まじかよ?お前、いいのそれで?」
「え?何が?だって理人かっこいいだろ?」
「…まぁ。男としてはな。……お前がいいなら別にいいけど」
へへっと桜が笑うと黒田ははぁ、と溜息を吐き出してまじまじと桜を見た。
「お前が女と付き合うってのも考えられなかったけど、まさか男にいくとは…」
「ちげぇもん!理人だからだ!」
「あっそ。別にどうでもいいけど。頑張れば?」
「頑張るっ」
黒田からそう言われればよし、と桜は気合を入れた。
「……で、どう頑張ればいいんだ?」
「しるか!アホ!」
「アホはねぇだろ」
……なるほど、と黒田の読みに思わず納得する。
理人は大人だし、桜と年も違う。だから…?
でも嫌いじゃないとは言われたけど、好き、というでもないと思う。
理人は全然態度が変わらないし。桜は一人で焦りまくってるけど!
…ううん、でも昨日送ってきてくれて帰る時にほっぺた撫でてくれた。
その前も父親の言葉思い出して思わず泣いてしまった時も抱きしめてくれて…。
嬉しい。幸せだ、って思った。
あんな事してくれる位に少しは桜の事は好きなんだと思う。
ただ、好きの種類が桜と微妙に違うだけ?
理人のキスしたい、抱きたい、の好きに入ってない、好きなんだ。
…きっと。
今はそうでもキスしたい好きに変わる事ってあるのかな…?
黒田には頑張れば、っていわれたけど。
頑張ったらキスしてくれる?
…キスしたい、なぁ。
思わずキスを思い出して桜はぽやんとしてくる。
だって目の前に理人の顔があったんだもん。
…今日、行っていいのかな?
部活も習い事もなにもしていない桜は学校が終われば暇だ。
やっぱり行っちゃお!
ちょっとでも理人に会いたい。
昨日の夜は寂しかった。
隣に理人がいなかったから…。
前の日なんて手まで繋いでいたのに。
何もかにも理人といて、理人としたこと、あった事を思い出すだけで心臓がどきどきしたり、顔が赤くなったり、心が苦しくなったりする。
ちょっとの事が嬉しくて、ちょっとの事を気にしたり。
好き、って大変なんだ…。
やっぱりこんなの初めてだった。
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