煽るって…。
理人が帰って家でご飯を食べながら桜は理人に言われた事を考える。
「桜、先生のとこでご飯用意してきたの?」
考えてたけど母親に聞かれて考えを中断させた。
「え?あ、うん。だって理人ホントに料理壊滅的らしいから。本当は器用だと思うんだけどな…」
母親に聞かれて桜は頷いた。
母親と並んで座ってご飯を食べている撫子をちらっと見れば無表情の無言だ。
「食事当番なしにしようか?桜は先生のご飯係で」
「は?なんで?」
そりゃラッキーだけど!
「お母さん料理教えて貰ったの実は大先生の奥様、つまり若先生のお祖母ちゃんから色々教えてもらったの。パパが亡くなった時もこの先あんた達抱えてどうしようと思ってた所に仕事紹介してくれたのも大先生。…だからあんたが若先生の役に立つならいくらでもして欲しいんだ…。お母さんが恩返す前に大先生達がいなくなってしまって…全然恩返しにもなんないんだけど」
「……そう、だった、の?」
「そう。その他にもいっぱいお世話になってる」
しんみりと母親が話すのに桜は初めて聞いた話で驚いた。
「理人のお祖母ちゃんから…?」
「そう。結婚したての頃、お母さんは料理へたっぴで!習いに行ったって感じ」
くすっと母親が笑った。
「…だから、理人、美味しいって言うのかなぁ?だって、俺作るのも理人のお祖母ちゃんの味と似てるって事だろ?」
「そうね」
なんかちょっと納得。
そうなんだ…。
「お母さんの代わりにあんたが返してくれるなら。本当はお母さんがしてやりたいけど…」
「いい!俺するっ!」
「そう?そんなに桜料理好きだったっけ?ま、いいけど。あんたの当番の分はお母さんがするから。撫子いい?」
「…別に」
撫子がまだ機嫌よくないらしいのに母親と顔を合わせて肩を竦めた。
「じゃ洗い物とかは俺するから」
「……桜、可愛いなぁ~~!女の子だったらよかったのに!」
まったくだ!そうしたら理人に対してもこんなに悩まなかったかもしれない!
理人も女の子だったら嫁に!って言ってたし!
……なんて今まで思った事もなかったのに。
桜は自分の部屋でごろんと横になって携帯を眺めていた。
理人はもう食べ終わったかな?もう終わってるよな。メールしようか、ウザイかな、とか一人で考えていると小さくノックの音がした。
撫子か?
「…何?」
そっとドアが開いた。
「桜ちゃん…助けてくれて…ありがとう」
桜は携帯を置いてベッドに起き上がる。
「俺がお前を助けるのは当然だ」
「だって…出てけ、って…言ったのに…」
「ばぁか!そんなん言ったって何したって撫子は俺の妹なんだから助けるの当然だろ。見た目コレでも俺はお兄ちゃんだし」
「お兄ちゃん、だよ…私より可愛いけど!」
撫子のその返事に桜はがっくりきてしまう。
「先生の事……本気で…好き、なんだ、ね…」
どこをどう見て撫子がそう思ったのかは分からないけれど桜は目をそらさないで頷いた。
「好きだ。だからお前にもやらない」
「いいよ、もう……。だって先生も桜ちゃんしか見てないし」
「………は?」
「車の中でもイチャイチャイチャイチャ。今日も先生に送ってもらってきて道路で見つめ合っちゃって!信じられないっ!」
…ええと?いつの事だ?
立ち止まって話してた時?
イチャイチャ、見つめ合って…って…。
撫子の目にはそう見えたのかと桜は思わずかっと顔が赤くなる。
するとそれを見て撫子がさらにむっとした顔をする。
「なにその顔!ムカツク!!!さらに可愛くなって!いったいどうすんの!?桜ちゃん!」
「は?意味わかんねぇ」
「わかんねぇ、じゃないでしょ!もう勝手に先生とイチャコラしてれば!?なによ!もうっ!えっちでもなんでもしちゃえばっ!!?」
うわーんとまた撫子が泣いて桜の部屋のドアをばたんと閉めて出て行った。
えっち、って………。
……撫子って男同士で出来るの知ってるんだ?
自分はちょっと前に知ったばっかだったのに…と、兄としてはちょっとそこが微妙にショックだった。
しかも、すれば、って……。
桜はリアルにはキスまでしか考えた事がなかったのに急に現実味を帯びた。
プール行った時の理人の身体を思い出してしまうとなんかヤラシイ気分になってくる。
「やべ…」
考え出したら止まらなくて、つい色々妄想に入ってしまう。
だって理人の声とか、抱きしめてもらった感覚とか、キスの感触とか…。
なんかリアルに思い浮かんでしまう…。
テーマ : BL小説
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