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桜誘う桜守 42

 がちゃっとドアが開いて理人が戻ってくる。
 「桜?どうした?」
 やっぱり理人の顔が赤い。
 桜が手を理人の額に伸ばして熱を確かめればやはり熱は高いようだった。

 「理人、寝て!」
 「いや、大丈夫だって」
 「大丈夫じゃない。着替えして寝てて。喉は痛い?」
 「……まぁ」
 理人が素直に頷く。
 「うどんかお粥にする?雑炊とか」
 「……じゃ、うどん」
 「うん」
 桜は理人の身体を押して二階に連れて行く。
 治療の後で風呂に入らないと嫌だと言い張る理人に桜は溜息を吐きたくなるけど気持ちは分かる気がする。
 じゃ、すぐ横になるなら、と桜が許可して理人は風呂へ。
 その間にうどんを作っておく。

 「寝て!」
 「いや、食ってからで…」
 風呂をあがってきた理人に桜が階段を指差す。
 「寝る!明日も午前は仕事あるんだろ?うどんは部屋まで持って行くから。あと体温計はどこ?」
 「リビングのボードの小さい引き出し、かな…?」

 桜は体温計を見つけ、うどんと一緒に持って二階に上がった。
 お盆に乗せて理人が食べている間に今度は氷枕の用意をする。
 「食べたらちゃんと寝て」
 枕を変えてやると理人はやっぱり身体がしんどいのかはぁ、と溜息を吐きながら横になった。
 脇に体温計を挟んでやって電子音がなれば8度7分。熱が高い。

 「桜、氷枕どこから?」
 「ウチから持ってきた」
 「そ、っか……悪い…。送っても行けない…」
 「いいよ。帰らないし。理人一人なのに。いるからいいよ?」
 「大丈夫だって」
 「大丈夫じゃない。喉痛いんじゃ風邪かな…」
 「…多分な。そういや患者さんで咳してた人いたな…俺、そんなヤワじゃないはずなんだが…」
 「食生活が悪かったからでしょ」
 「…………桜、容赦ないな…」
 そうこぼす理人の息は熱くて苦しそうだ。
 「当たり前。はい、寝る。俺、片付けてくるから」
 「ああ…桜……ありがとう」
 理人の声に張りがない。やっぱりけっこう具合悪いんだ。

 「理人…薬ってある?」
 「ああ、お前さ、診察室の受付の薬入ってる棚分かる?そこから2種類の白い薬あるから持ってきて?抗生物質と胃薬だから」
 「分かった」
 誰もいない夜の診察室はちょっと怖い気もするが、桜は階下に下りると診察室のドアを開けて手探りでスイッチを見つけ電気をつけ、言われた薬を水とを一緒に持ってまた理人の所にいった。
 薬を飲ませると桜も勝手に、あるものでそそくさとご飯を済ませて片付けを済ませてまた理人の部屋に行く。
 理人の額に触ればやっぱり熱い。

 「理人、飲んで。水分とらないと」
 スポーツドリンクも自販機から買ってきていた。
 「…ああ…桜…慣れてるな?」
 「まぁね。撫子が熱よく出してたから」
 「…………」
 複雑そうな顔で理人が桜を見ていたのにくすと桜が笑った。
 世話できるのが嬉しい。
 「なんか…世話なりっぱなし…」
 「いいよ、別に。俺がそうしたいだけだから」
 そう、別に理人に頼まれてるんでもないし、桜が勝手にしている事だ。

 「理人寝ていいよ」
 「…悪いな…」
 やはり熱でだろう、理人がとろりともう眠そうだ。
 「…寒い、な」
 ぽつりと半分眠りかけながら理人が呟く。熱で悪寒がするんだ。
 桜はそっと理人の額を撫でてから部屋を出て、慣れた様に勝手にシャワーを借りると手早く済ませ、1階の戸締りを確認して電気を消し、そして二階に上がっていった。

 「理人…?まだ寒い?」
 「…寒い」
 ベッドの端に腰かけて小さく話しかけると理人が答え、そして桜に手を伸ばして桜の腕を掴まえた。
 「桜…」
 熱のせいなのか、寝ぼけてるのか、寒いからか。きっと全部で、だろうとは思うけれど、桜は身体を引っ張られてベッドの中に入れられる。

 う~わ~…。

 理人の腕が桜を抱きしめて、顔が目の前にあった。
 「あったけ…」
 呟いてそしてすぅと理人はまた眠ってしまったらしい。
 困る…。
 今日は理人が困るんじゃなくて桜が困ってしまう。
 こんなんされたら、自分が理人の内側に入れてもらってるのがはっきり分かってしまうじゃないか。
 期待してしまうじゃないか。
 だってちゃんと桜、って呼んでるんだから、桜だと理人は分かってこんな事してるんだ。

 熱い理人の身体が可哀相だ。熱が下がりますように、と桜は目の前の目を閉じて眠っている理人の長い前髪をかき上げ、顔を撫でてやった。
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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