理人ははっと目が覚めてぎっしりと自分が腕の中に閉じ込めている存在、桜に冷や汗が流れた。
やばい…。
寒くて桜を自分が抱え込んだのは覚えていたけれど、そのまましっかりと掴まえたままだったらしい。
そして桜も理人の腕の中で安心しきった顔で寝ている。
ダメだろう…。
そう思っても腕を解く気にならないんだから、どうしたものか。
睫毛がびしばしだ。
思わずじっとカーテンの隙間からの明るい日差しの中の桜の寝顔をじっと見てしまう。
可愛い、んだ…。
顔の事だけじゃなくて。
高校生なのにしっかりしてる。女の子みたいなのにちゃんとお兄ちゃんしている。
絶対桜の方が危なさそうなのに自分が守るんだ、と。男なんだと。
男にしちゃ小さい身体なのに。
撫子ちゃんをちゃんと守ってやるんだ…。
じゃあ、桜は誰が守ってやるんだ?
お父さんとの約束…。
それを言いながら涙を流した桜に理人は心を捕まれた気がした。
応える気はない、と言ったのに変わらず理人の所にきて面倒を見ていく。
美味しいといえば嬉しそうにして。
学校からまっすぐウチに来てコーヒーを用意してくれる。
こいつはまだ高校2年!
それにお父さんを早くに亡くしてるから、きっとちょっと勘違いしてるだけなんだ。
自分にこんな事を言い聞かせている時点で自分一体どうなんだ?という気はしてくるが。
ちょっとした事でもぱっと笑顔になったり、嬉しそうにしたり、怒ってみたりと、その反応がまぁ、可愛い。
どうしたもんかな、と理人はいつも思ってしまう。
桜は好意を全開で出してくる。それを拒否しないのは自分だ。
…拒否した方がいいのは分かっているのに、だ。
分かっているのに、桜を自分の中に入れておきたい、とも思ってしまう。
拒否したほうがいい、としたくない、が心の中でせめぎあっている。
それでどうしても中途半端な態度になってしまうんだ。
分かっている。
そして桜を試したいわけじゃないのに、結果的にそうしてしまっている自分に苛立ってくる。
もう30になろうとしている大人が高校生相手に何をやっているんだか。
桜は真っ直ぐだ。
それが眩しいとさえ思ってしまう。
理人はすやすやと眠っている桜の顔を見て苦笑が漏れた。
この無防備な顔…。
俺の理性が切れて襲ったらどうすんだ?
好きが分からないなんて言ってるお子様だぞ?
せめてもう少し恋愛に関して大人なら…。
いやいや、大人な考えだったとしても高校生に変わりないだろ!
いかん、と理人が小さく頭をふった。
どうやら熱はもう下がったらしい。
のどの痛みはあるが辛いというほどのものでもない。
「…桜」
桜の名前を呼ぶと桜の身体がもぞもぞと動いた。
「桜…」
桜の耳元で名前を呼んだ。桜が目を開ける時に腕を離そうか。
…そう思ったら桜がさらに身体を摺り寄せてきた。
「り、ひ…と」
まだ寝ぼけているらしくたどたどしい口調で目は閉じている。
「!」
桜が腕を伸ばして理人の首に腕を絡めてきた。
「桜?」
起きてるのか?いや、これはマズイ…気がする。
「ゆめ……」
ん?
桜が小さく呟いてうっすらと目を開けた。
「あ、…いい、夢…だ…」
理人の顔を見てにこりと桜が笑みを見せると桜色の唇をちょっと尖らせてむちゅっと重ねてきた。
…………。
どうしようか…。
「ん…?」
桜が眉を顰めながらぱちんと目を開けた。
ぎっちりと大きい目を開けて理人を凝視しているのに理人は手で桜の額を押し頭を離した。
「襲うな」
「えっ!…夢、じゃない…?」
一体なんの夢を見てたのか…。
「あ!理人、熱はっ!?」
桜はキスの事など全然気にした様子もなく理人の額に手をかざしてくる。
「下がってる!」
「ああ…楽になった。ありがとう」
「よかった!」
ぴょんと桜がベッドから飛び降りた。
「具合、酷くない?大丈夫?ご飯は普通に食べられそう?」
「ああ、大丈夫だ」
理人がベッドから起き上がりながらそう言うとぱっと桜が笑顔を見せた。
朝からこれだけで縁起がいいような気がして理人は頭を捻りたくなる。
「じゃ、朝ごはんの用意するね!理人は顔とか洗って!あ、キスご馳走様でしたぁ」
ぱたぱたと桜が部屋を出て行ったのにがくりと理人はやっぱり頭を抱えてしまった。
テーマ : 自作BL小説
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