今日も泊まってダメ、かなぁ…。
昨日は大義名分があって泊まれたけど…。
お昼を済ませて、理人はカルテの整理中、桜はソファに座ってどうにか泊まれないかなと思案していた。
「布団と洗濯物片付けてくるね」
「いいって!俺がするから。飯だけでも助かってるって言ってるのに、そこまでしなくていいから」
やっぱり出すぎたまね、かな…。
思わず桜がしゅんとしてしまう。
理人が何も言わないからって調子乗りすぎ?
…でも。
「今日はいいから。俺してくる!理人はおとなしく書類してていいから!」
立とうとする理人を抑えて桜が立ってばたばたと階段を上っていく。
布団をちゃんとベッドメイキングするとふかふかになった布団から太陽の匂いがする。
さすがに泊まりたいなんていえねぇよなぁ、とまた桜はしゅんとしてしまった。
そして洗濯物も片付けて1階に下りていく。
「悪いな…」
「ううん。全然」
理人が済まなさそうにしているのに桜は明るく答えた。
どれもこれも桜が勝手にやっている事だから。
はぁ、と理人がだるそうに溜息を吐いている。熱は下がったけどまだ身体はちょっとだるいみたいだ。
もしかして桜がいるから無理しているんだろうか?
だったら桜がいない方がもしかして理人は身体が休まるんじゃ…?
そりゃそうだ。よその家のヤツがいて休まるはずない。
「……おれ、あと夜の分用意して帰るね…」
「ん?ああ…ホント悪いな」
ほっとしたように理人が息を吐き出したのが分かってしまった。
桜はそれに気付かないふりをする。
「あるもので簡単にになっちゃうけど…」
「いいよ全然。助かる」
「理人は今日もちゃんと早く寝てね?」
殊更明るい声になるように桜は気をつけた。
理人にウザイとか思われたら嫌だ。
そりゃ毎日毎日入り浸れたら嫌にもなってくるだろう。
桜は会えるだけでも嬉しいけれど、理人はそうじゃないんだ。
ただご飯の用意が欲しいだけで…。
「じゃ、俺帰るね?無理しないでよ」
「送って…」
「まだ明るいし!歩いて五分だし!俺、女でもないんだからいらない。それより理人はちゃんと休んで?」
「……桜?」
「うん?」
「…いや……。ありがとうな。ホント助かった」
桜は無言で顔を俯けて首を横に振った。
そんな事言われて泣きたくなってきそうだ。ホントは桜に対して溜息吐くくらいなのに。
「…じゃ」
理人に家の鍵を預かってからは次の約束なんてしたことなかった。
勝手に桜が鍵を使って入ってきていた。
それも毎日。
明日も来たら迷惑?
聞きたかったけど聞けなかった。
理人は迷惑なんて言わない。きっと。…迷惑だ、って思ってたって。
「ちゃんと早く寝てね?」
「分かってる」
くすと理人が苦笑していた。
玄関先で手を振って、そして桜は走って家まで帰った。
「ただいま」
「おかえり~。先生大丈夫なの?」
置手紙で書いていったのをちゃんと見たのだろう。母親が階段を上って自分の部屋に行こうとした桜に声をかけてきた。
「うん。熱は下がったけど、まだちょっとだるそうだから…。俺いたら邪魔かな、と思ってご飯の用意だけして帰ってきた。あ、コレ勝手にもってった」
氷枕を鞄から出した。
「別にいいけど。どうせ毎日使う物でもないし」
そのまま桜は自分の部屋に入ってベッドに横になった。
…なんか辛い。
一緒にいられるのは嬉しいのに、心が苦しい…。
朝はあんなに幸せな感じだったのに…。
いい気になりすぎたかな…。
だって…。
理人の腕の中はすごく安心出来て…。
でもそれは全部桜だけの感情だ。
理人は別にそうじゃないんだから。
それでもいい、と思っていたはずなのに…。
桜が好きなだけでいい、と思ってたのに。
もっと理人からが欲しいと思ってしまう自分がいる。
応えられない、って理人は言ったんだ。
でも今朝もキスした時、理人から拒絶はなかった。
それが救いだけど。でもその後だってない事のようにされてたし、桜も理人が望んでるわけじゃないだろうからと極力考えないようにした。
思い出すだけでこんなに苦しいのに…。
はぁ、と大きく桜は溜息を吐き出した。
理人は男で大人なのに…。なんでこんなに好きなんだろう?
桜は自分がこんな風になるなんて思いもしなかった。
理人はもう29で、今年30。結婚してたっておかしくない。
結婚…?
あの家で誰かと理人が暮らす?
「………嫌だ、な…」
理人の家のキッチンは桜の居場所だ…。
そんな事思うの間違っているって自分で分かってるけど…。
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