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桜誘う桜守 46

 日曜日。
 理人に大丈夫?ってメールしようか、それとも行っちゃおうか、どっちも決めかねて桜はぐだぐだと自分の部屋でベッドに横になっていた。
 理人からメールが来るわけでもない。
 ……だよね……。
 携帯を弄りながら悩んでいたけど、やっぱりそんなの性に合わなくてちょっとだけ行ってみよう!と桜はベッドを飛び降りた。
 どうせ5分の所だし!

 「ちょっとでかけてくる~」
 声だけかけてすぐに家を出た。
 でも理人の家が近づくとどうしても桜の足取りは重くなってしまう。
 昨日の理人の溜息が桜を臆病にさせていた。
 ポケットの中で理人の家の鍵がちゃり、と鳴るけれど、今日は理人が休みだから鍵の出番はない。
 ゆっくり窺う様にしながら理人の家に向かうと玄関が開くのが見えて思わず桜はあ!っと思って電柱の影に隠れた。

 誰かと一緒だ…。
 どくりと心臓がなって桜は息を飲み込んだ。
 女の人、だ。
 「理人~!早く!」
 「うるせぇ」

 だ、れ…?

 綺麗な大人の女の人だ。
 理人がシャッターを開けて車に乗り込むと、女の人は助手席に当然の様に乗ってそのまま出かけていった。
 桜とは反対方向に車が出て行ったので桜の姿は見られていないはず。
 呆然としたまましばらく桜は立っていたけど、その後、とぼとぼと自宅に帰った。

 「桜?帰ってきたの?」
 「…うん」
 母親の声に一応返事はしたもののすぐに二階にばたばたと上がっていくとベッドに突っ伏した。

 アレ、誰?
 家には誰も来ないって言ったのに。
 理人って呼んでた。
 ここじゃ先生ばっかで誰も理人なんて名前で呼ばないって言ってたのに。
 …それ、嘘?
 でもじゃあなんで鍵…?
 鍵を桜が持っているのは本当だ。
 誰?
 助手席に乗ってた。
 助手席も先週は桜のものだったのに!
 やだ!

 ……って桜がいくら思ったところでどうしようもないのだ。
 理人には応えられない、って言われているんだ。
 黒田にはがんばれば?って言われたけど…。

 ベッドも…一緒…?
 「や、だ…よぉ……」
 昨日桜が布団を干して太陽の匂いがするベッドに理人があの人と?
 そんなの嫌だ。
 ……でも桜にはそう思ったってここでぐずぐずしている事しかできないんだ。

 ずっとやだ、やだ、しか浮かばないまま日曜日は終わってしまった。
 勿論理人からメールも来ない。
 …当たり前か。
 泣きたくなってくるけど、こんな事で泣けない。
 桜は布団を被って夜を過ごした。



 月曜の朝、学校に向かう前にちょっとだけ遠回りして理人の家の方を通ると、あの女の人が新聞を取りに外に出てきてたのを見た。
 ……泊まった、んだ……。
 決定的。
 桜は理人の家から走り去った。

 「桜?どうした?」
 「うん?いいやぁ~…なんでも…」
 学校でずっと机に突っ伏して何もかにもやる気が出ない。
 黒田に話しかけられるのも正直鬱陶しくて、放っとけ!って感じだった。
 黒田は何かを悟ったのかそれ以上話かけてもこず、ほっと安心する。
 こういうとこ黒田は分かってるんだよな。
 桜が落ち込んでる時放っておいてくれるのが桜は一番楽なんだ。

 学校の帰り、桜はどうしても気になってこそりと公園の木に隠れて遠目で診察室を覗いてみた。
 理人がいた。
 …と思ったら昨日の女の人も白衣を来て診察室にいた。
 歯科助手とかと違って、白衣だ。
 先生、なの…?
 ……結婚、という文字が桜の頭に浮かんだ。
 結婚して二人で歯医者、する?
 ざわりと身体が震え、そしてその場から桜は走って逃げた。
 見たくない。

 …どうしよう。
 ポケットの理人の家の鍵を握り締めた。
 鍵返せ、って言われる、きっと。
 やだ…。

 泣きたいけど。泣けない。
 誰?なんて聞く資格だって桜にはないんだ。
 お前には関係ないだろ、って言われればそれまで。

 でも、あの人が昨日もいて、今朝もいて、一緒に診察室にいるんじゃどうしたってそれしか考えられない。
 一昨日は理人と一緒にたのは桜でベッドも理人の腕も桜のものだったのに。
 もう理人の家に桜の居場所なんかないんだ…。
 理人から鍵持って来い、ってメールとか電話が来たらどうしよう?
 …桜は携帯の電源を切った。

 そんな事したって家は5分しか離れてないんだから意味はないと思う。
 思うけど、1分だって1秒だってこれを持っていたい。
 これは桜が勝手に入っていいから、と理人に言ってもらったものなんだから。
 でも違う。貰ったんじゃな、桜のものじゃないんだ。
 持ってていい、と理人は言ったんだ。
 桜にくれたわけじゃないんだ。預かってるだけなんだ…。
 

 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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