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桜誘う桜守 47

 理人からメールも来ない。
 桜からもしないし、行かないまま木曜日になった。
 昼休みに携帯に電源を入れてみるけどやっぱり理人からも何もない。
 そしてそのまままた桜は電源を切る。

 「お前なんなの?毎日毎日。いい加減うぜぇぞ?」
 黒田が桜の椅子を後ろから蹴り上げながら言ってきた。
 「うるせぇ。ほっとけ」
 「ほっといてるだろうが。ったく…」
 分かってる。
 黒田は黒田なりに心配しているんだろう。そしてそれが理人の事でそうなってるというのも分かってきっと放っておいてくれてるんだ。

 今日は理人は午後休診だ。
 いつも木曜日は長い時間一緒にいられて、買い物一緒行ったりで嬉しかったのに…。
 どうしよう…?
 ちょっとだけ、行ってみる…?
 でも…。
 理人には会いたい。
 けど…。
 
 理人をちょっとだけでも見たくて桜はどきどきしながら理人の家に向かった。
 まるで桜の心情を表すかのように空はどんよりして今にも雨が降り出しそうだ。
 …降ってくれればいいのに。
 そしたら雨と一緒に涙を流せるかも…。
 そんな風にまで思ってしまう。
 泣きたいとき来ていいって言ったのは理人なのに…。
 その理人の所為で泣きたい時はどうすればいいんだよ。
 「……あ…」
 理人の車のシャッターが開いてて車がない。
 出かけてるんだ。
 あの人と一緒に?
 
 桜は診察室の向かいの公園に向かった。
 公園は理人の自宅の方からは見えない公園のブランコにただ座って呆然としていると雨が降ってきた。
 ぽつぽつと降ってきた雨が一気にざぁっと音をたてて桜の身体を濡らしていく。
 雨が降りそうで道を歩いている人なんかさっきからいなかった。
 田舎でもともとそんなに人通りがあるわけじゃない。さらに雨が降ってくれば近所のおばちゃんたちは外に出ないだろう。
 それがかえって桜には好都合だ。
 桜は顔を上げて泣いている空を見上げた。
 一緒に泣いてもいいのかな?
 誰も見てないし。
 診察室に目を向けた。誰もいなくて暗くなっている。休みなんだから当然だけど。

 「桜っ!?桜か!?」
 え?
 自宅側の方から理人の声が聞こえた。
 いつの間にか帰ってきてたらしい。自宅の方からは見えないはずなのに桜がいたのに理人が気付いてくれた。
 「お前なにしてんだ!鍵あるんだから入ってればよかっただろう!?ほら、来い」
 理人が桜の方に走ってきてブランコに座ってた桜の腕を取る。
 「もうびしょ濡れじゃないか。いつからいたんだよ」
 「や!いいっ」
 だってあの人がいるのに、嫌だ。
 桜は腕を振って理人から離れようとした。

 「いいじゃないだろ!来い」
 「やだっ!理人っ…」
 やだ、と首を振る桜に理人は桜を抱え込むようにして連れて行く。
 「何したんだよ?まったく!こんな雨の中!」
 玄関先まで連れて行かれ、理人が自分の鍵でドアを開けた。
 「や……」
 中から女の人が出てくると思ったら出てこない。
 「ホラ、お前そのままシャワー行って来い」

 ……いない、の…?

 理人に担がれるようにして風呂場に押し込められた。
 「着替え持って来てやるから。まず全部脱いで熱いシャワー浴びとけ」
 パタンとドアを閉じられて桜はのろのろと濡れてへばり付いた制服を脱いでいく。
 言われた通りにそのままシャワーを浴びてると理人が着替え置いとくぞ、と洗面所から声をかけてきた。
 いない、みたい…だ。
 誰の声も聞こえてこない。
 シャワーを終えて置かれていた理人のTシャツとニットパンツを着る。

 「……でか…」
 当たり前だけど全部がぶかぶかだ。
 腰がずり下がってくるのを押さえながら風呂場を出た。
 「制服乾燥機入れたぞ?どうなるかしらねぇけど」
 「……大丈夫、だと思うけど…」
 「桜、こっち来い」
 ソファに座ってた理人の隣にちょこんと座った。
 やっぱり家には理人一人みたいだ。

 帰った、のかな…?
 「なんで家に入ってなかったんだ?」
 制服のポケットに入っていた理人の家の鍵を理人が桜に手渡しながら言った。

 まだ、鍵、持ってていいの?

 「理人……」
 「んん?」
 「理人」
 「なんだよ」
 桜は隣に座って桜の方に身体を向けていた理人に思い切りしがみついた。
 そして体重をかけると理人をソファに押し倒した。
 「どうした?」
 それでも理人は全然慌てた様子もない。
 「理人ぉ」
 涙が出てきた。
 だから今まで我慢してたのになんで理人の前だと出てくるんだ?

 「何した?」
 理人の上に乗っかって胸に縋って泣き出した桜の背中を理人が摩ってくれた。
 「やだ」
 「やだ?何が?」
 「やだった…」
 「だから何が?」
 理人の声が近い。桜の耳元で理人の優しい声が聞こえればもっと泣きたくなってくる。
 
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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