「…っふ…」
何度も何度も貪られるように理人のキスが襲ってくる。
「や、…もう…っ」
おかしくなってしまいそうだ!
ついさっきまで雨に打たれて半分泣いてたのに、急にこんななんて!
すると理人が仕方ないなと言わんばかりに桜を離した。
「理人、変わりすぎだと思うんだけどっ!」
だって応える気はないって言ってたのに!
「お前が可愛いんだから仕方ないな」
「な、なにそれっ!」
顔を真っ赤にして抗議する桜に理人が平然と言ってのけ、桜は絶句する。
「俺とキスしたって全然なんとも思ってなさそうだった、のに!」
「良識ある大人としてはやっぱ我慢しなきゃな。お前は高校生だし。ばれたら犯罪者だ」
「……え?そう?」
「だろうが」
「別に好き同士…だったらいいんじゃないの?」
好き同士に自分で言ってちょっと動揺してしまう。好き同士でいい、のかな?理人も好きだ、って…今言ったよね?
「そういう問題じゃないだろ」
「……ねぇ、そんな事より…」
「ん?」
桜は理人の胸のあたりのTシャツを掴んだ。
「好き…って言った?」
「聞いてなかったのか?」
「聞いてた!…けど…信じられねぇ、もん…」
くっくっと理人が笑った。
「桜、好きだ」
そういって桜の頬にキスしてくれる。
う~わ~~~…。
なんか、なんか…幸せってこんな感じ?という位に気持ちが舞い上がっていく。
「……………雨かなり激しいな。お前どうするんだ?帰る?」
「帰らないっ!」
ぽやんと嬉しくて気持ちがふわふわしていたら理人にそう聞かれて速攻で答える。
折角理人に好きって言ってもらえたのになんで帰るか!
「理人、くっ付いて一緒寝ていい?」
「…………………はぁ」
理人が桜を見ながら大きな溜息を吐き出した。
「え?ダメ、なの?」
「…いや。ダメじゃねぇよ」
そう言いながら桜の頭をぽんぽんと叩いた。
「家に連絡入れろ」
「うんっ!」
母親はまだ帰ってきていないだろうから撫子に電話した。
雨降ってずぶ濡れになって理人の家にいて制服も乾燥機してもらってるからこのまま今日泊まるから、と説明したら、撫子にはあ、そう、じゃあ、と簡単に言われて電話を切られてしまった。
「じゃ、なんかご飯の用意…」
…ってもう1週間近く来てなかったから何もないかな、と思いながらも理人から離れてキッチンに向かった。
「…あれ……?」
なんか冷蔵庫の中も何も全然変わってない…。
「理人!」
「なんだ?」
「なんか、全然…なにも、その、変わってないんだけど?」
「え?ああ。だってキッチンなんて立たねぇもん」
リビングでカルテを広げ始めた理人が当然の様に答えた。
いや、理人が立たないのは知ってるけど…妹さんも?
「ああ、杏奈も家事ダメだ。俺よりさらにダメだぞ。片付けもできねぇからな」
「………」
あんな綺麗で、歯医者にもなるくらいの人が家事ダメ?
片付けも下手って…どうなってるの?
「歯の治療できるなら料理位なんてことないと思うんだけど…」
「いや。それとこれとは違う」
理人が断言した。
変なの。
桜はぷっと笑った。
なんだ、我慢しないで来ればよかった…。
でもちょっと我慢して苦しい思いをしたからこそ理人がやっぱりそれでも好きだと思えたんだからよかったのだろうか?
桜は冷蔵庫と日持ちしそうなもの、と買っておいたものを確認する。
「理人、パスタでもいい?」
「なんでも。桜の美味いから」
やっぱり理人にそう言ってもらえるのが嬉しい。
一時は料理が出来るってだけで入れてもらえるのかなと思った事もあったけどそうじゃなかったんだ。
それはいいんだけど、理人の服が大きすぎてぶかぶかすぎる。
ズボンが腰から落ちそうになるのに何回も上げた。
「お前の着替え、今度置いとけ」
くすくすと理人がその桜を見て笑いながら言う。
「それはそれで可愛いんだけど」
……可愛い可愛いって言いすぎだ。
でもあんなに嫌いだった<可愛い>が理人から言われると全然嫌じゃないんだ。
確かに年が13も違って…。でも年だけじゃなくて…。
「理人って男でもいいの?」
「は?」
「俺男だよ?」
「知ってるそんなの。プール一緒にいっただろうが。言っておくが男と付き合った事はねぇぞ?」
そうなんだ…。
自分だけ特別?
桜だってそうだ。理人だから好きなんだ。
理人はカルテの整理をしている。
これもいつもの事。桜が食事の用意をしている間、理人はリビングでカルテの整理。
先週と一緒だ。
でも違う。
だって先週は好きは桜だけだったのに、今日は理人からも好きがもらえたんだから。
思わず桜の顔がふにゃりと緩んでしまっても仕方ないだろう。
テーマ : 自作BL小説
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